夕子が何気なく、当たり障りなく会話を交わしていると、始業の時間となった。学力が変わらない学校に推薦で編入してきたため、授業の難易度はそれほど上がらなかった。しかし、周りの集中度合いは、以前の学校の方が高かった気がする。ポーズは、成程今の学校の方が遥かに集中している。先生がチョークの色を変える度に、教室中にペンのカチャカチャ音が鳴った。だがそれはあくまでも美しいノートを取るためで、花の香りのする少女たちは内心上の空で授業を受けている、フリをしていた。
夕子はこの柔らかな光の膜に包まれたような雰囲気に驚いた。時間がゆったりと流れて行った。
2度の休み時間を超えると、夕子の周りの人だかりも減っていった。その中で、彼女はクラスには既にいくつかの派閥があることに気がついた。その中の、どこかに入れるだろうか。
「紫雲さん、私たちと一緒にお昼食べない?」
昼休みになると、隣の席の女子生徒が彼女に話しかけた。夕子は承諾した。すると、隣の席の女子、そして前の席の二人の女子は机をくっつけてきた。
「じゃあ私たち、お昼買ってくるね。」
前の席の二人は財布を手に教室を後にした。夕子は白い風呂敷に包まれた弁当を取り出す。
「紫雲さんって、部活とか決めてるの?」
夕子は顔を上げた。隣の席の女子は胆吹鈴子(いぶきりんこ)と言った。
「あ、まだ入って初日では決まってないよね。」
彼女は本当は決まっている、と言おうと思い口を開いたが、鈴子の言葉に同調しておいた。
「そしたら、色んな部活見学してみたらどうかな?」
そう言って鈴子も弁当を取り出した。
「私は合唱部だから、言ってくれれば紹介するよ。」
夕子は、二人が帰ってくるまで弁当を開けないべきなのだろうかと思っていたが、鈴子は何食わぬ顔で弁当を開けて食べ始めた。夕子もそれに倣った。
「あ、朝練ちょっと見たんだね。合唱部は大変だけど、人数多いからサボろうと思えばサボれるんだよね。」
夕子の弁当は和食であった。普段は洋食、和食、購買の繰り返しである。好物の唐揚げが入っていることに頬が綻んだ。
「今日はホイド買えたね~」
暫くして前の席の二人が帰ってきた。二人はいつも購買で買っているらしかった。二人ともサラダと、人気商品で、いつもは直ぐに売り切れてしまうというホイップクリームの挟まれたドーナツを手に持っていた。
「何の話してたの?」
「ああ、部活ね、うちらはダンス部。」
ダンス部。夕子が反応すると、鈴子は「ダンス部興味あるんだー」と言った。
「え、前の学校でもダンス部だったの?即戦力じゃん!」
前の席の女子の1人が言った。
「今日見学来なよ。」
もう1人が言った。
そして放課後、夕子は合唱部とダンス部の見学に行くことになった。