もっとも嫌いな太陽の角度の中で、
体中が冷や汗に包まれる。
夕子は、視線の中に立って居た。
それは彼女の欲していた憧憬や羨望の眼差しではない。
恥さらしに向ける、哀れみ、怒り、そして、拒絶の眼差しであった。
夕子は合唱部にもダンス部にも入部届を提出していたことが公になったのは、文化祭が終わり、彼女が合唱部の編入試験に合格したのちのことであった。鈴子の助けもあってか、彼女の元々の美しい空気を纏う声のためか、夕子は難なく入部を許されることとなった。鈴子は泣いて喜んだ。ダンス部においても、夕子が入部届を出したことが分かると、聖子は喜び、飛びついてきた。夕子にも分かっていた。兼部、ましてや片方は校内の強豪校とライバルのいる運動部との両立など許されない、ということが。しかし、決断する前の夕子は強気であった。自分になら、他の人にできないこともできるかもしれない、一瞬でもそう思ってしまった、傲慢さが彼女の首を絞めつけた。
「え、紫雲さんって、合唱部じゃないの?」
一年生の女子のこんな会話が、ことの発端であった。人数もすくなくクラスも四組しかない女子校では、情報が伝わるのなどあっという間のことであった。夕子がダンス部と合唱部を兼部しているということは瞬く間に広まり、それは一年生だけでなく、上級生の間にも知れ渡った。こうして紫雲夕子の名は、乙女の赤い吐息に乗って、悪しき方へと飛んで行ったのである。これは当然、夕子の望んでいたことではなかった。そして、想定できた筈なのに、彼女がしっかりと見ていなかった未来なのである。
夕子には、後ろ盾がなかった。そのため、彼女の身を守ってくれる存在はいなかったのである。鈴子ですら、体裁を気にして、夕子から遠ざかった。彼女も当然、夕子がダンス部とも兼部していることなど知らなかったのである。聖子は表向きは話しかけてなど来たが、よそよそしい態度を取った。合唱部に行っても、ダンス部に行っても、夕子の居場所はなく、彼女はただおずおずと、所在なさげに練習に混ざるしかなかったのである。顧問も、まるで彼女をいない存在かのように扱った。夕子は壁の花であった。それはそれは美しい壁の花であった。
当然、学園で形骸化しているシスター制が機能することもなかった。映子は努めて夕子と関わらない様にしたし、露世に関しては、姿を見出すこともままならなかった。
しかし、夕子は決してあきらめなかった。
家に帰り、夕子は事の顛末を母親に話した。母親はその意思の強そうな眉をひそめて、手を額に添えてため息をついた。自然な動作だったが、品のあるものだった。夕子はそういう動作をすることが、まだできなかった。幼少期のバレエの経験からか、形だけまねることはできていた。
「どうしてもっと早く相談しなかったの」
夕子はたじろいだ。そんな選択肢は彼女になかった。本当なら、親から自立して、全てを自らで解決しようとしていたのである。夕子は俯いた。
「いい、今からいう様にするの」
母は夕子にいった。強い目だった。夕子は顔を上げた。