そよかぜ便り

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連続テレビ小説 ゆうぐも(2)

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夕子は吊革に捕まり、電車に揺られている。今日が初登校である。夕子は東日本に生まれ、西日本に移り、再び東に帰ってきたのである。しかし住宅の手配が進まず、転居は彼女の入学に間に合わなかった。そこで、11月になって、夕子は編入することとなった。

夕子は、着ている制服が自身に与える価値を周囲の視線から感じ、少し気が昂った。落ち着くために、流れゆく景色を見ながら、前の学校でのあれこれに思いを馳せる。これから行く学校は女子校である。前の学校は共学校であった。彼女には想い人がいた。

しかしそれももう、昔の話になる。

隣では母が真っ直ぐ前を見つめて立っている。夕子は不安げにその横顔を見る。自身の目とおなじ目には、自身のものより長く、上を向いた睫毛が生えていた。

「もう着くよ」

母は前を見たまま言った。

夕子の胸は高鳴った。ずっと憧れていた、瀟洒な学校。入学試験以来、訪れたことはなかった。その中高一貫の花園は、オフィス街にあった。夕子と一緒に、大量のサラリーマンが降りていった。

地上に出て数分で、その花園はあった。

オフィス街の片隅にある故、広すぎも豪華すぎもしないが、新しく、小洒落た校舎だった。正門から校舎に続く道は小花に彩られていた。花のせいか、清潔感溢れる香りがした。また、合唱部の朝練か、美しい歌声が聞こえてきた。

約束の時間の5分前には到着していたにも関わらず、既に校舎の入口には案内役の先生と、もう1人、女子生徒が立っていた。

「おはようございます。」

母が言うと、2人も同じように返した。夕子は、その挨拶が「ごきげんよう」では無いことに少し驚いたと共に、そんな想像をしていた自分がおかしくて、笑いそうになってしまった。しかし、女子生徒の視線に気づき、ハッと息を飲んだ。

その女子生徒は頭から足先まで夕子を舐めまわすように見た。まるで、値踏みするかのように。

「説明にもありました通り、彼女が紫雲さんのシスターです。」

これが夕子と筒地映子の出会いであった。