そよかぜ便り

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連続テレビ小説 ゆうぐも(1)  再放送

ピンクに滲む夕暮れの空│北竜町ポータル

 

 

私はサガンにはなれなかった。別になりたくもなかった。

嘘、なりたかった。

でも、そんなことはどうでもいい。

 

彼女はららぽーとの服屋から出てきた。黒い制服を纏って。その顔は赤く上気していた。彼女の頬を染めていたのは、他でもない、彼女自身に値札が付くからである。

 

彼女のデビュタントは、明日だった。明日、彼女は評価をされるはずだった。何故ならば、彼女にはそれに相応しい器量と、話している誰もを魅了する機知があったのだから。

 

彼女はららぽーとの服屋の紙袋を大事そうに抱えながら、美容院に向かっていった。

美容師は、いつも彼女の黒々とした髪を切っていた。しかしその髪は決して美しいものではなかった。

 

彼女は髪にパーマ液の匂いをさせて、美容院を後にした。彼女の髪は絹の様に美しいものになっていた。

 

フードコートには彼女の母親が待っていた。彼女の母親は大層厳格な人であった。家は裕福ではなかったが、紳士的な祖父と、没落貴族の血を引く祖母の血筋のためである。彼女の品のある天性の仕草は、恐らくそういったルーツがあった。

 

彼女たちは車に乗った。明日の反応を楽しみに。そして、輝かしい未来に胸を躍らせて。車は丘を越えた。川を越えた。彼女の髪は空いた窓からの風でたなびいた。パーマ液の匂いを香らせて。

 

窓の外に見える空は夕暮れだった。紫色の空が、秋の寂し気な川に反射していた。木々は裸であった。紫色は、彼女の一番似合う色であった。官能的な、ボルドーの唇に。薔薇が咲いたような、その頬に。彼女の名は夕子。この時間、誰よりも主役でいられる名であった。そして、彼女が最も忌み嫌う時間を体現した名前であった。