水彩画って苦手なの。水を多くしすぎて紙が破けちゃうから。
どうして君がそんなことを言い出したのかは分からなかったけど、多分、君が出ていった理由はそれなんだろうな。
冷蔵庫の中には冷凍のお好み焼きがあった。
封を切ってから、「このまま温めてください」の表示に気づいた。こういう時、どうしたらいいか分からないんだ。
仕方がないから、レモンドロップスを舐めた。君が帰ってきたら、何とかしてもらおうと思った。
夜になった。誰も帰ってこない。驚いたことにチェルシーすら帰ってこない。煮干しならちゃんとあるって言うのに。
不安になって外に出たけれど、なんとなくもう君に会えない気はした。
そうなると困った。この街に知り合いなんて誰もいない。
国境を超えれば、そりゃあ馴染みもいるだろうが、身一つで出てきちまったから、パスポートすらない。
気持ちを落ち着けるためにビデオを借りた。3本も借りた。面白いか分からないけれど、君のことを忘れられる気がした。
だけど、ビデオを見ていた方が君のことを考えてしまった。
だってさ、そりゃ君が悪いよ、気味だって悪いよ。
映画のタイトルが何だったと思う?
そうだよ、君が苦手な水彩の、水彩色のあの花さ。
君の名前の花だよ。
多分、あの時ちゃんと、褒めてあげれば良かったんだね。