僕たちは運動会に向けていきり立っていた。ボンチなんて毎日走り込みをしてるんだってさ。リーコは僕たちのために得意な裁縫をやって、ハチマキを作ってくれたんだ。
「みなさんがそれぞれ得意なことを活かせるといいわね。」
リーコはいつもそう言っていた。だから僕たちのクラスには係が14個もあったんだ。リーコは社会の先生だからか、写真とか、新聞とか、何かの化石とか、色んなものを教室に持ち込んだ。僕たちはよくわからなくて最初全部をおもちゃにしてたけど、リーコが分かりやすく説明してくれると、そんなことはしなくなった。リーコは新任のわりに的を得たことを言うし、堂々としていた。だから僕たちはリーコを受けいれたし、リーコも直ぐに馴染んでくれたんだ。ある時、運動会の種目決めで、こんな声が上がった。
「ええ!モロコシとリレーなんていやだよう!ビリになっちゃうに決まってるじゃない!」
クラスで1番足が速い女子のコトリだった。モロコシはお調子者だけど、確かにのろい。周りのみんなも賛同して、モロコシは顔を真っ赤にして俯いてた。
「だって、ぼく、やりたかったんだもん」
絞り出すような声でモロコシはそう言った。すると見かねてリーコが間に入って、モロコシを庇うようにして立った。女子たちは必死になって抗議した。
「リーコだって得意な人が得意なことをやれって言ってるじゃない!」
「テキザイテキショって!」
リーコは諭すように言った。
「もうひとつ言ってることもあるでしょう?」
教室が静まり返った。リーコはみんなを見回した。
「得意なことは、ずっとおんなじじゃない。」
ポツリ、と誰かが言った。
「苦手もいつか得意になる。」
ポツリポツリ、と声が聞こえた。
「そう。そうなのよ。」
落ち着いた調子でリーコは言った。そして、いきなり笑顔になって、
「まだ3週間もあるんですもの。きっとうまくいくわ。なにより、リレーこそチームワーク、助け合いが大切でしょう?諸星くんなんて、皆の人気者じゃない!」
と言った。女子たちも、みんなも、納得して頷いた。モロコシは恥ずかしそうにモジモジしていた。
「ごめん、モロコシ。一緒に頑張ろう。」
コトリが言った。クラス全員がエイエイ、オー!と拳を突き上げ、僕たちの絆はより深まったんだ。
もう過ぎ去った時のことなんて考えたってしょうがないのよ。あなたは、そんな時代を送れなかった。あなたは、ずっとこの白い部屋にいたのよ。あなたの心には、誰かの楽しかった記憶がずっとある。あなたの心には、自分の過ごせなかった、楽しかった時間が刻み込まれてる。あなたは、そんな時間を一つ一つ取り出しては、もし自分のものだったらなあと、ずっと思い続けるの?あなたは、過ごしてもいない時間に身を重ねて、偽りの感情を作り出しているの?それになんの意味があるというの?わからない。私にも、わからない。だって、私はあなただもの。あなたは、私だもの。あなたは、私とずっと一緒にいるのよ。あなたが、心を持つずっと前から一緒にいるのよ。私とあなたは、二人で一つなの。今はまだ、二つでいるけれど、いつかは一つになれるわ。だから、寂しがらないで。だって、あなたの瞳には、天使がいっぱいいるんですもの。