をめざしてみたけど!なんか時代が令和じゃなくなってしまった()悲しいなあ...。エモいどころかただ辛い感じになっちゃったけど私はそんな辛い思いをしてないから薄っぺらくて草。
「過剰な女の子っていうのはさ、親の愛情を全く受けていないか、受けてたとしてもそれが本当の子供への愛情じゃなかったかなんだよね」
タバコに火をつけながら彼は言った。雨のふりしきる11月だった。
「あいつは気をつけた方がいいよ」
新歓の飲み会で、バドミントンサークルの先輩は眉をひそめながらそう言った。サークル内恋愛の話だった。
「ヤバいよね、あの子たちもそのせいで凄い険悪だし」
聞くところによると、そのヤバい先輩は地味組の女の子を取っかえ引っ変えしているらしかった。
「まあ、部相応ってことかな」
バドミントンサークルの女子には3つの派閥がある。この先輩たちが属するのはキラキラ組。そして地味組。その中間に位置するのがフツー組。あたしはフツー組にいた。キラキラしてたり可愛かったりするわけでもないが、芋臭いわけでもない。おたくでもなければ、騒がしいギャルでもない。ただ普通にサークル活動をこなしているため、役職を任されたり、欠員が出た時の頭数合わせにされたりする存在だ。
あたしはバドミントンが特に好きなわけでも、高校でやっていた訳でもないけれど、何かしら運動のサークルに入りたかったのと、体育の授業で唯一4をとれた種目だったからこのサークルに入った。しかし、全然上手くならないため、あまり面白くならなかった。
「大丈夫?」
そんな時話しかけてきたのがヤバい先輩だった。
「ヘアピンの打ち方が分からないって?」
話に聞く限り、チャラ男だと思っていたので、案外普通のなよなよとした人で拍子抜けだった。
それからあたしはしばらくその人にバドミントンを教えて貰っていた。
あたしは、テレクラで知り合った知らない男とお酒を飲んだり、一晩過ごしたりしてお金を取っていた。
その事を彼に話したのは、3回目に2人でご飯を食べた時だった。ぼくもさ、と彼は言った。
高校時代、とっても好きな予備校の先生がいたんだけど、その先生は大学生で、ぼくと話している時間なんてただの義務の時間で苦痛なんだろうなと思っていた。だからぼくは少しでも先生に楽しんで欲しくて、授業も真面目に受けてたけど、先生のこと褒めたり、面白い冗談を言ったり、先生の好きな音楽を聞いたりしてたんだ。そしたら、ぼくが卒業するとき、こっそりメアドをくれたんだ。それからぼくは先生の部屋に入り浸ってお酒やタバコやちょっとした薬を覚えたんだけど、ある日先生が男の人といるところを見ちゃったんだよね。それで何となくはっきりしたんだ。いつの間にか安心しちゃってたけど、結局今もぼくといる時間は義務なのかなってさ。そしたらなんかぼくは先生といれなくなっちゃったんだ。
終電と思われる電車が通る音と一緒に部屋が揺れた。窓ガラスに叩きつけられる雨音と、反射する電車や車の光、部屋全体の空気が心地よかった。部屋の中は缶やらティッシュやらで埋め尽くされて布団以外に座る場所すらない。ゴミだらけだし、ヤニ臭い。彼はタバコを灰皿に押し付けると、クローゼットの中から1本のボトルを取り出した。
これは、なにか、大切な時にとっておいたんだ。はじめて、先生と飲んだワインだったんだけどさ、これとっても高かったらしいんだ。なんでこんなの飲ませてくれたかはわからないんだけどね。
そういって適当に出てきた紙コップにワインを注いで、あたしに寄越してきた。そのワインはサイテーだった。喉や胸が焼けるようだった。あたしの知ってる良いワインは、せせらぎのように体に染み込んでいくものだ。綺麗な夜景の見えるレストランで大人があたしに飲ませてくれたから、わかる。隣を見ると彼はなんでだか、悲しそうな顔をしていた。過剰な女の子ってさ、と彼は喋り始めた。
過剰な女の子ってさ、意外と沢山いるんだよ。ぼくの背中を見れば分かるだろうけどね。それは国のせいでも、親のせいでも、本人のせいでもきっとないんだろうけどさ、人間の本能のせいなのかな。でも、ぼくも女の子に生まれてたら、きっとそうなってたよ。多分ぼくが最初に出会った過剰な女の子っていうのは、先生なんだよね。その点君は不思議だね。だから、今日このワインを開けようと思ったんだ。
なんでこの人は、こんなに汚い部屋で、こんなにまずくて安っぽいワインを飲みながら知ったかぶりで分かったような口を聞くんだろうとあたしは思った。彼の傲慢さと軽さがとても気持ち悪くて、流れ込んだワインと、喉と胃の熱を吐き出したくなったし、彼と一緒にいたくなくなった。それからあたしは彼とは2人で会ったり話したりしないようになって、サークルにも行かなくなった。
あたしは大学を卒業して出張風俗嬢になった。赤坂だとか六本木だとかのホテルの高層階で縛られたり、縛ったり、富や地位を見せびらかされたり、酷いことを言われたり、されたりした。今日も西新宿のホテルで、ロマネコンティだとかなんだとかの高いワインをバカでかいグラスに入れられて、フォアグラみたいな高い料理と一緒に飲んでいる。きっと、舌が蕩けるほど美味しい組み合わせだけど、あたしはそういうものを口に入れる時、あのワインの味を思い出してしまう。あたしが目と股を濡らして喜ばないのを不思議そうに客が見ている。ねえ、あなたはもう一度あたしに会いたいのかな?あたしは今も、あなたの飲ませてくれたワインの味を覚えてるんだよ。
あたしの、飢えを満たしてくれたワインの味を。