西武新宿線に乗って、高田馬場駅で降りると、そこにはあたしの知らない世界が広がってた。
中学受験とか、イマイチそういうのに身が入らなくて、それよりお金稼いでブランドバッグとか買った方が楽しいような気がして、それでいまあたしはここにいる訳で。
塾には自習しに行ったことにしてある。そういうことが、あたしには、あたしの家にはできる。
真冬だというのに半裸でロータリー前ではしゃいでる学生たちの半分は、別の地域からきた学生らしい。
隣にいる人が教えてくれた。
あたしはそんなことどうでも良くて、はやく2時間くらい経てばいいのにと思った。
隣にいる人は駅から左側に歩いて少ししたところにある坂道を登っていった。
あたしは右側を歩いてるから、その人の顔の左側にある大きなケロイドがよく見えた。
坂道を登ったところにある建物に入ると、その人はほんとにいいの、と聞いた。
あたしは身長が163cmもあるから大丈夫と答えた。
その人はタバコを吸いながらあたしによくある質問をした。どうしてこんなことしてるの、とか。
お金以外に何があるのか、とあたしは思う。
ママは壊れた。
あたしが小学校受験に失敗した時点でママはおかしくなった。あたしはおかしくならなかった。
自然派で大人しくて専業主婦のママは大学時代のチアリーディング部の会合に行ってから少しずつ壊れ始めていたんだと思う。
トイレに起きた時、真っ暗の部屋の中で必死でパソコンのキーボードを叩くママの背中を見てそう思った。
あたしはインスタで見たキラキラしたブランド物のほうが、都内有名中高一貫校に行くより価値があると思った。だいいち、受かりっ子ないし。
ケロイドのあるその人は、あたしに君頭いいんだからもったいないよと言った。
あたしもそう思う。でもあたし、九九も出来ないのよ。
ケロイドのあるその人は、あたしくらいの年齢の子じゃないと興奮しないと言っていた。気持ち悪いと思ったけど、少しだけ可哀想になった。
家に帰ると、いつも通りママは精進料理を作っていた。食べたくない。でも、食べないとママは泣き出すからあたしは我慢してそれを食べて、部屋でポテチなんかを食べてる。
それでもあたしは、痩せすぎ体型らしい。
窓から街を見下ろす。23階にあるこの部屋は、逆にどこにも逃げられない、監獄のようだった。
あたしは塾にいる9割メガネの集団を思い出した。あたしはそっちにいきたくない。それも、上のクラスの余裕も美貌もある奴らと違って、偏差値40にも満たないクラスだから、勉強したくもないのにさせられて、ストレスで髪の毛抜いたり奇声発したり発狂してるやつばっかりだ。
あたしは鏡に映る自分の姿を見た。
なかなか可愛い。
これなら、モデルにでもなれるかもしれない。
スマホを取り出して小学生向けのモデルオーディションの記事を見る。そして、躊躇することなく応募完了。あたしの行動力ってすごいでしょ?
オーディションに受かるためには、高い化粧品と高いトリートメントが必要、な気がする。
九九なんてやらされないし、あたしはスタイルも頭がいいから絶対受かる。
とりあえずお金が必要だ。あたしはアプリを開いて客を探す。
「そんなことするよりさ、ビデオに出た方が稼げるよ。ちゃんと身バレしないようにするから」
今日の人は、ギョウカイジンだった。そんな事どうでもいいから、はやくしてよ、あたしは言った。その人は、今外に待たせてるけどどう?すぐ終わるからさと言った。あたしは悪くないかなと思った。
気づいたらあたしはどこかのマンションに閉じ込められていた。家には帰れなかった。
どうしてだろう?あたしの頭の中はぐるぐる回っていて何も考えられなかった。
近くには同じように頭をぐるぐるさせている女の子たちがいた。あたしのが可愛い。
ママはどうしてるだろうか。
でも、ママだって同じじゃん。パソコンで調べた。
お腹も空いてたけど眠かったから、あたしは少し眠ることにした。
しばらくして、ほかの女の子の悲鳴であたしは目覚めた。
なに、うるせえんだけど、とあたしが言うと、その子は人が死んでる、と言った。
見るとなるほど人が死んでる。
周りにいた4,5人の女の子たちは脅えていた。
あたしはそんなことどうでも良くて、早く家に帰りたかった。
でもどんなカラクリなのか、内側からドアを開けることはできなかった。
あたしたちは何故かみんな白い水着を着せられていた。あたしはとても恥ずかしかったけど、他の子達の貧相な体を見てると少しだけ自信が湧いた。
しばらくすると、ドアが開いて人が入ってきて、これを片付けてくれたら、次にあるオーディションに受からせてあげると言った。
ほかの女の子たちはそれを拒否して、マンションから出てどこかに行ってしまった。
あたしはやります、と言ったので部屋に残らされた。
じゃあやり方を教えてあげるから。さっきまで施設にいたお兄さんが言った。
あたしはその死体を風呂場に持って行った。
まずは、肉を削ぎ落とした。肉は硬かったけど、お湯を張って放置してたら、少しずつ柔らかくなった。
次に、骨を煮込んで柔らかくしてから砕いた。
お兄さんは作業の途中にピザやマックを頼んでくれた。
これ、なんのためですか、あたしが聞くと、夢を叶えるため、とお兄さんは言った。
お兄さんの顔はボコボコで汚かった。
死体の顔は綺麗だった。
あたしはその顔の皮膚を髪の毛ごと剥がした。
最後には筋肉と目と口だけ残った顔が顕になった。
あたしは目をくり抜いて、そこから脳みそを掻き出した。耳からもかきだした。
口から頭蓋骨を2つにして、バットで砕いた。
お兄さんは、ギョウカイジンだったけど、悪い人だった。
ほかの女の子たちは、船に乗せられたらしい。
あたし、ホントにモデルになれますか、と聞くとお兄さんは微笑んだ。
あたしは剥がした肉をトイレに流したり、骨を粉々にして、近くの公園に撒いたり、コンビニのゴミ箱に捨てたりした。
全て終わって、血液など拭き取ると、お兄さんはドアを開けて言った。
迷子になったと言えばいいよ。
お金ないの?あたしが聞くと、ないと思う?と聞かれた。それなら、皮膚科に言った方がいいよ、あたしは言った。
あたしの、出たらしいビデオは、ネットの裏側に流されたらしい。あたしは110万円を手渡された。洗濯して使って、と言われたけど、お札を洗ったら破れると思う。
突然ほっぽり出されて、あたしは家に帰った。家に帰るとママは首を吊ってた。
また死体かよ、あたしは思った。
それも排泄物がそこら中に撒き散らされていて、とても臭かった。
あたしはこんな汚いところにいたくなかったし、家を出た。
でも家を出ると寒いしお腹はすくし最悪だった。
あたしはスマホを見て、適当な電話番号に電話した。
電話に出て、麻布十番まで車で来てくれたのはケロイドの人だった。
こんなとこに住んでたなんて、お嬢様なんだね、とその人は言った。お嬢様?あたしは耳を疑った。必死で家計簿をつける母、滅多に家に帰らない父。存在しないお手伝いさん。ウサギ小屋のようなタワーマンションの23階。どこが。
車の中でその人に今までの話をしたら、ケロイドのお兄さんは、面白いね、小説家になったら?と言った。あたしムカついて、じゃあ今から部屋に来る?ホントだから。と言った。
とにかく、あたしは未来の東宝スターだ。
ケロイドのお兄さんは楽しそうに昼の首都高を走り抜けた。
夜はあんなにキラキラしてるのに、昼の東京は地味だった。
何食べたい?お兄さんは聞いた。
あたしは、回らないお寿司、と答えた。