そよかぜ便り

些細な日常をお届けします!

悪女ものがたり

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あたしはさながら50年代のお嬢様の様に運転席の死体にしかいない菌を保有したやつの目を手で覆いながら殺すわよ、と言った。

そしたらそいつは驚いてハンドルから手を話してブレーキと間違えてアクセルを踏み込んだ。

その瞬間目の前が真っ白になってとんでもないほど身体中が痛くなって熱くなった。

気がつくとあたしは爆煙の中にいて、車だったものの下敷きになっていた。

すると知らない人があたしの口の中にカプセルを入れた。

あたしは眠りについた。

次に目を覚ますまでの間に、あたしの人生を振り返ろうと思う。

あたしは歯に歯石の多いその辺の女、三ツ羽✕美25歳という人間だった。

昔から運動が少し得意で、体育系の大学に行った。カシコい大学の彼氏が高校時代に出来て結婚してテキトーにパーソナルトレーナーでもやれば幸せな人生が送れると思ってた。

でもそうではなかった。

そいつはツマンネー人間だった。そもそもあたしのことを知らないくせにあたしのことを選んだ時点で浅い人間だった。

あたしがそう思ってることがそいつにバレたと思って焦って離婚した。

ばつみちゃんそれはあまりにも可哀想だよと友達は言ったがあたしには友達はいなかったしそんなことよりもっと楽しいことがあると思った。

雪が降る日にホテルの窓から飛び降りたり。

笑ったり。泣いたり。歌ってみたり。

でもパーソナルトレーナーにもなれなかったフリーターのあたしには全然出会いなんてなかった。

死体にしかいない菌を保有した男とは、妊娠した子供を捨てた7時間後に出会い系掲示板で出会った。

あたし達は人殺し同士よく息があった。あたしは車の中で流行りのアイドル、大して可愛くない烏合の衆の集まりがすきっ!を繰り返す流行りの曲をかけながら車を走らせた。

男の家に向かっている途中だった。男は秋葉原で運転を代わった。保険も入ってないのに代わりやがった。

飲み屋街で男が包丁で刺されていた。

あたしはそれを見て何かを思い出した。

80年代?90年代かもしれない、その頃の街の灯りを…。

 

目を覚ますと、あたしは70年代の住み込みの女中の娘になっていた。清子という名前の16歳の女子だった。

あたしは鏡を見てハッとした。その顔は✕美の顔だった。

雇われてる家には立派なテレビがあった。そこでは薄ボケた色の女性歌手が映っていた。

あたしの中の清子の心が言った。

アイツを襲うのよ。

あたしはトイレが汚い時代が許せなかった。

だから早速それを行動に移した。

コロナ・ウイルスってしってる?

なあに、それ。腸チフスみたいなもの?

コンサートが行われている体育館は蒸し暑かった。

そこには変な髪型の古臭いメイクの女たちと、無駄に体の幅が分厚い男たちがいた。

小学生の頃に行った(これは80年代のもの?)夏祭りのむさくるしさを感じた。

血の匂いを感じたいと思った。

だからあたしは女が出てきた瞬間に、清子が用意周到なことにしっかりと準備してた塩酸を2022年からもってきたCOACHのカバンから出した。

女は流行りの曲を歌っていた。

あたしは壇上に上がった。

女は歌いながら驚いた顔をした。

で、あたしは親衛隊が壇上に上がって来る前に急いでそいつの顔に塩酸をぶっ掛けてやった。

煙が立ち上った。

親衛隊はあたしを組み伏せようとしたけど、

ん?なんで?

清子…あたしの顔は大分可愛かったし、着ている服もセンスがあった。

それなのにあたしは、アイドルの扱いとは大違い、犯罪者の、暴漢の、汚いオヤジみたいに扱われた。

そこには可愛い女の子に触れたいという気持ちは1ミリもなくて、俺たちのアイドルによくも、という怒りの感情しかなかった。

あたしは誰かに偶像にされたかったのよ

清子が言った。

あたしは、じゃあ一緒に来なさいと言ってカプセルを飲み込んだ。

 

次に目が覚めた時、あたしは1985年の両親のいない娘であるゆうこ9歳になっていた。ゆうことは話が合わない。だって相手は9歳だものね。清子は女中の経験を活かしてゆうこを上手いことあやしていた。

古臭い学校の、小学生向けのトイレはあたしが小学生の時のものよりだいぶ綺麗だった。

それもそのはずよ、だってあたしの小学校はこの頃に建てられて建て替えられてなかったんだからネ!

で、あたしは鏡で9歳の美少女の顔を満足気に眺めて、茶番みたいな授業を受けて、1人で家に帰った。

わけないでしょ。

あたしは埼玉の真ん中あたりをウロウロして公園で下着が見えるのも気にせずにジャングルジムに登ったりした。

すると、やっぱり、あの人が来た。

来た、とあたしは好きを連呼する2022年のアイドルみたいな気持ちになった。

公園には何人か女児がいた。でもあたしが1番肉感的で可愛いはずだった。

それなのにあの人はあたし以外の女児…女を物色しはじめた。

あたしはジャングルジムから降りてそいつにドロップキックをかまそうかとおもった。

本当に、上手くいくの?

清子が言う。

こわい

ゆうこが言う。

静かにおし!

あたしは言った。

その声があまりにも大きすぎて、公園の人間はあたしを見た。

その人はあたしに

〇〇公園ってどこにあるのかな?

と聞いた。

ゆうこは、知らない人と喋っちゃダメよ!と言った。

ちょっとステキな人ネ

清子が言った。

あたしはそんなのどうでもいいからはやくころしてくれませんかと言った。

あんなに大好きで、ずっと信じてた人が、そんなにかっこよくなかったのだ。あたしは絶望して、逆に殺して実家に遺体を送り付けてやろうかと思った。

その人は少し驚いた顔をした後に、これ以上遺体が家に入り切らない、というような事を言い寂しそうに笑った。あたしは腸が煮えくり返る思いで、でもそれを25歳の余裕で押し殺して言った。

代わりに、焼きたてのトーストが食べたいんだけど、いい?

その人は目をぱちくりさせた後に、怖がってその場から逃げてしまった。

あたしはめんどくさくなったので8月12日の東京大阪間の飛行機に乗った。

 

その後は、カレーに青酸カリを入れたり、夫をそそのかして死体を透明にしたり、チビの男に嬲り殺されたりした。でも、清子とゆうこの他には誰も連れて行かなかった。愛を求めていなかったから。

 

隣の席の桐谷は不思議な女子だ。時々窓の外に目をやってはニヤニヤしたり、腕を見つめて恍惚の表情を浮かべたりする。彼女の黒い髪が窓から差し込む光に透ける度に、俺は思った。

こいつは、人ではない、と

桐谷は俺の方を見て、時々ねだるような顔をすることがある。

俺はその度に冷や汗をかいた。

俺は夜な夜なランニングをする婦人にバタフライナイフを突き刺して逃走する遊びをしている。

家に帰っても誰もいない、孤独に耐えかねての行動だ。

でも桐谷はそこまでは知らないはずだ。

桐谷の体は15歳のものとは思えない程肉付きがよく、一見すると小学生だ。

彼女の髪はキューティクルの失われたボサボサのセミロングだ。

そうだ。あの日からだ。桐谷がおかしくなったのは。

あの日、俺が、桐谷の、スカートに、足元に、血が

 

「ねえ、なんで私じゃだめなの?」

 

桐谷が目を半月型にして言ったことがある。

夜のランニングコースだった。

 

まあそうだよね、だってどうせ別にあたしじゃなくていいんでしょ?だってお前が見てるのは自分だけだもんな!あたしは2009年の時、ガラケーを持った美咲という女になった。その時、新しい文明をみたゆうこと清子はたいそう喜んだ。ゆうこはあのまま生きてたら娼婦になってる女だったから連れてきて結果オーライってやつ。あたしはその人に会いに行った。秋葉原に。でも、だめだった。その人に話しかけて、お腹に冷たくて熱い感覚をたっぷり注いでくれるナイフと、彼の腕を掴んでなんで!?私のことを暗闇の地下室(茨城県)で拷問椅子に括りつけて1ヶ月かけて殺してくれればいいのになんで色んな人に同じことをするの?どうせ皆全裸の死体を投げ捨てるだけでしょう?それなら私一人でもマジいいじゃん!2009年風の喋り方がわからなかったからあたしはあたしのまま喋った。美咲がワンセンテンスに1回は「マジ」を入れるべきだと言った。そんな言葉も聞かずその人は、話題作りのために多くの人を殺したいと言って去ってしまった。美咲は人気アイドルの握手会でセンターの女子のことを切りつけようとしていた。あたしはそれには反対した。清子の時にそれをやって、虚しさしか残らなかったから。だからあたしはあたしとして愛してくれる人探しの旅に連れていくことにした。ネオ麦茶だとか、ネバダたんだとか、ネットミームには興味がなかったから、記憶の隅の事件簿から引っ張り出して2015年まで来たのに。お前には愛想が尽きたわ。桐谷は連れていくからね。

 

高校生になった時、桐谷を殺した。

俺は孤独に耐えかねて精神薬「バカナオール」を飲むようになった。俺のバカは治らなかった。

桐谷はあれからずっと俺を追いかけてきていた。もはや実体はなかったのかもしれないが、少なくとも俺の中で彼女はずっと俺を追ってきていた。

俺はいつからか自分のこうなりたいという気持ちを全部捨ててしまった。

それに比べて、桐谷はすごいな。

そう思ったとき、私は、俺は、ボクは桐谷のことが、お母さんのことが、クラスにいたウサコのことが好きだったことに気がついた。

丸の内でウェディングフォトを撮りたかったことに気がついた。

でもその時には遅かった。

 

あたしは食傷気味になっていた。

この旅、真実の愛を探す旅はいつ終わるのだろう。

清子も、ゆうこも、美咲も憂い顔をしていた。

あたしは2021年に戻って鏡を見た。

そこにはお歯黒をつけて眉毛を全剃りしている恐ろしい平安美女の姿があった。

あたしは自分の醜さに驚いた。

鏡にゆらりと人影。

振り向くとそこにいたのは、かつての自分…✕美だった。

あなたは笑うでしょうね。

唯の悪女に身を落とし、悪人にすら相手にされず、ただ醜い妖怪として時を過ごすだけのわたくしの姿を!

✕美はあたしを、清子を、ゆうこを、美咲を日本海が見渡せる崖から突き落とした。

 

ここで、かつて日本を小さく揺るがした悪女が身を投げたとされていた。

彼女は時を渡る力があり、20世紀から21世紀の凶悪事件に関わっていたという。

しかし、その話の出処は定かではなく、デブな女がオムライスを食べながら伝えた話とされている。