それはまるで謁見であった。
王女の雪解けのような白い肌に照らされ、黒い制服はまるで白い衣裳のようであった。
王女の髪は茶色がかっていて、夕陽の下では白っぽく見えた。
色素の薄い目は、優しげに彼女を眼差しでいた。
形のいい薔薇色の唇は、ふわりと結ばれていた。
纏う空気は周りの者を圧倒する威圧感と、蕩ける様な甘い官能を兼ね備えていた。
放課後、慣例として、夕子はシスターである映子と待ち合わせをしていた。事務手続きの言伝や、今日一日で感じた不安感、感想などを述べたり、連絡先を交換したりするためである。夕子は音楽室を後にして、昇降口へと向かった。部活終わりの多くの学生が行き交っていた。夕子は映子の姿を探し、靴を履き替え外に出た。映子は花壇に囲まれた噴水の下のベンチに座っていた。部活終わりだからか、その肌は汗の痕で光っていた。そこには、もう1人、生徒がいた。
「ごきげんよう」
他の人が言っていたら吹き出してしまうような挨拶を、その人はいとも自然に言った。初め、その言葉が発されたことに、夕子が気づかないほとであった。
その美しい人は、白雪 露世といい、映子のシスターの3年生の生徒だと言う。
勿論、夕子や映子も整った顔立ちをしているが、露世のそれは、常軌を逸していた。
あるいは、顔立ちそれ自体は整っていないのやもしれない。しかしそれすら分からないほどに彼女に備わった仕草や居立ち振舞は完璧なものである。
軽い挨拶と、今日の報告を済ませ、3人は解散したが、家に帰ってからもうつくしい人のイメージは、夕子の脳裏に焼き付いて離れなかった。
では、露世と会った人物が全て彼女の瘴気に充てられるのであろうか。
否、
それは夕子だけであった。彼女以外の人間には、露世の纏うあやかしに気づくことなく、彼女を汎用な一生徒として捉えたのであろう。
そのいい例が映子である。
白雪露世という少女が、鍵穴にカチャリ、と鍵が噛み合うように、噛み合った瞬間に、夕子の瞳孔が開き、指先がツンと痛み、頭が焦げ付いたように、夕子の知らなかったものを体現した存在だったのである。
それは、官能でも、頂点でも、恋慕でもなかった。
その感情は、簡単なものであった。
LONGING
それ以外の何者でもなかった。