そよかぜ便り

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連続テレビ小説 ゆうぐも(8)

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それは太陽がうるさいくらいに照りつける朝であった。

夕子は夏休み以降は学校を辞めてしまうので、補講も、部活も行く必要はなかった。しかし、自分の意思で夏休みの間は元の学校での夏休みを過ごすことを決めていた。

水泳バッグを持って正門に着くと、顎元から汗を垂らして、仙子が待っていた。

「これだけ暑いと、早くプールに入りたくなるね」

二人はプール棟に併設された小汚い更衣室に入った。女教師が、プールを解錠する。今日の補講は2人だけだった。

照明の着いていないうす暗い部屋には、窓から木漏れ日が差し込んでいた。蝉の羽音がけたたましく鳴っている。

「じゃあ、5往復したら、タイム測定ね。」

プールの広さにも関わらず、仙子は別のレーンに入らず、夕子の後ろを泳いでいた。

夕子は水をかき分けながら、床に反射する光の美しいのを見た。そして、軽く潜水してその光に触れた。

浮上する時、何かが足に触れた。

夕子は驚いて水から顔を出し、振り向いた。すると、仙子がプール帽とゴーグルの下で、白い歯を剥き出しにして笑っていた。

途端、夕子の体にぬるりとした感触が貼り付いた。仙子は夕子の首筋に腕を回していた。

「今、先生いないから、遊びたくなっちゃって」

と言っても、女教師も少し何かを取りに行っただけで、すぐ戻ってくるだろう。怒られたり、面倒なことになったりするのを嫌う夕子は、優しく仙子から離れ、水を蹴って再び泳ぎ出した。

だが、仙子のいる場所はちょうど水深が深く、仙子は足が付けず、体勢を戻せずにいた。

夕子は仕方が無いのでその手を掴んで泳ぎ出し、仙子は体勢を立て直すことができた。暫く二人は手を繋いだまま泳いでいた。

 

補講が終わると、夕子たちは体に貼り付いた、水を吸った水着を脱いで、制服に着替えた。首にタオルを巻きながら、耳に入った水を抜いた。

「この後、お昼食べない?」

仙子が言った。夕子は、仙子と1度も二人で遊んだことが無かったことに気がついた。

 

蝉が鳴いていた。夏の真っ盛りである。太陽は、これでもかと言う輝きを二人の濡れた髪に落としていた。