あれは確か、私が小学3年生の頃でした。あれは確かから始まる文章は野暮でしょうか。
クラスで、博物館だが、アミューズメントパークのような所にいったときです。
あまり覚えてはいませんが、薄暗い室内照明に、時々、ガラスの展示物から青い光が床に落ちていました。
私たちは大きな水槽の前まで来ました。
水族館で、最も大きな水槽よりも大きな、家1軒分はある大きさの水槽でした。
その中にいたのは、見たことも無い灰色の釣鐘型の生物でした。
私は、水に揺れて何かがふわふわしているのを見つけました。
それは紐のように水槽の上から垂れ下がっていました。
よく見ると、それは髪の毛でした。
釣鐘型のソレの上部には、大きな、鉄塔よりも太い腕がありました。
釣鐘型になってるのは、大きなワンピースでした。
脚はありませんでした。
「これは腐っています」
先生だが、案内だかの人はいいました。
「しかし、大変興味深いので、こうして展示しています。彼女は息をすることも、息絶えることもありません。」
彼女
その言葉が私の頭の中に強烈に残りました。
私1人の大きさは、「彼女」の指の1本にも満たなかったのです。
彼女の裏側を見たい
私は強烈にそう思いました。
私は当時、男女の体の作りも、自分の体の裏側に何があるのかも知りませんでした。
それなのに、無性に釣鐘型のソレの裏側を見たくなったのです。
私はガラスに頬をくっ付けて、必死で見上げました。しかし、ワンピースが水流に揺れるだけで、なかなか見えません。
私はしばらく粘りました。クラスの子達は、どこかに行ってしまいました。
ふと、水流の向きが変わったのか、釣鐘型のソレは奥の方に傾きました。
そして、ワンピースがゆるやかにはためきます。
その時、私は、ソレの裏側が見えるようになったはずだったのです。
でも、見えませんでした。
その代わり、信じられない光景が頭に流れ込んできました。
それは、私と彼女の思い出でした。
私と彼女は草原の上にいました。彼女は私より背は高かったのですが、人間の大きさでした。
水槽の中にもあった長い髪の毛で顔は見れませんでしたし、私たちの間にはなんの会話も、ふれあいもありませんでした。
でも、私はこのうえなく悲しい気持ちになりました。
ボロボロと涙がこぼれました。
気づくと、やはり私は水槽の前にいました。
灰色のソレは何も言わず、見下ろしているかのように佇んでいました。
大人になった今でも、あれがなんだったのか私にはわかりません。
どうしてその裏側が見たかったのかも思い出せません。
何が私を悲しくさせたのかもわかりません。
ただ、その思い出は大変恐ろしく、切ないものだということだけ、覚えています。
それからあたしはジャンキーになったわ。
毎日カラフルなものに囲まれてたくなったの。
ブロンドの髪をツインテールにして、厚底のスニーカーを履いた。
首にはもちろんカラフルなキャンディーのネックレス。
シャツワンピは襟のところにスマイルの缶バッジをつけてる。
あたしが歩いてると毎日誰かが振り返る。
あたしが笑うと虹色の歯が輝くの。
そんでね、ケーキとコークでいっぱいになったら、クラクラしたとこで全部吐いちゃうんだけどさ。
でもさ、彼氏が「カリフォルニアの大悪魔」に会いにいくなんていうからあたし面白くってついて行っちゃったんだぁ。
そしたら豚の目玉みたいな死体が転がってて、全然カラフルじゃなくてムカついちゃった。
だからあたしはチャイルド・プレイ3みたいに真っ青の塗料をぶっかけてやった。
そしたら彼氏は発狂してあたしを殺しちゃった。
でもそんなことしても、世界はカラフルにならないのにね。おバカさん。