鼻水が止まらなくて辛い毎日を過ごしている春の日々
ワイの鼻にはどれほどの液体が格納されているというの
2023春
鼻水が止まらなくて辛い毎日を過ごしている春の日々
ワイの鼻にはどれほどの液体が格納されているというの
2023春
笑いは威嚇から生まれたというセリフがあったのは野島伸司の人間失格だったかと思う
私が今住んでいるマンスリーマンションの外は歓楽街で、深夜まで人の騒ぎ声が聞こえてくる
次の日の朝も早いから非常に傍迷惑な話だが、その中でも最も忌むべき騒音は笑い声である
笑い声になる途端ボリュームが上がるのもあるが何より笑い声であることが不愉快なのだ
笑いとはその輪に居ない者を跳ね除ける力がある
笑いと言えば思い出す映画がある
ホアキン・フェニックス主演の『ジョーカー』だ
2019年10月 大学が休校になったのをいい事に当時の恋人と見に行った
私は大学に入ってまず今まで私を見くびっていたやつを悉く蹴散らしてやるという思いでダンスや音楽をやっていた
そして悉く失敗するわけだが
大学に入ったばかりの頃はたまたまネットで知り合った中学の部活の先輩の家に通っていたがその関係も次第に破綻して大学のクソつまらない授業とサークルのクソつまらないノリに辟易しつつもそれに順応しなければいけないストレスで遊び方を覚えたりお酒を飲んでばかりいたせいで夏休みには口の中が口内炎だらけになり数えたら24個も出来ていたが
たまたま適当なノリで遊ぶことになった人と東京タワー近くの公園で触れ合っていた人から口内炎について言及された時にその限界は訪れてついでにダンスサークルとバンドサークルと地域猫サークルの合宿を一日のゆとりもなくハシゴしたあたりで腰をやってしまい、いい加減定住する場所を見つけるべきという結論に達した
当然私が結論に達する時は母の介入があるわけだが
そして母が私のフォロワー欄から適当に見繕った優しそうな男に会う約束を取り付けて会うことになったがここまで私は何も手を加えていない
その人との生活は優しく献身的なものだったが所謂接触はほとんど無かった 理由は未だに分からない
年上なのに年上のお姉さんによしよししてほしいと思うタイプの人だった
私には包容力はないので辛い時代を過ごさせてしまったと思う
でも私もその時期は地獄だったのだ
私が地獄から抜け出せたのはいつかと言われると
今でしかない
こうして悪夢のパズルのピースを集めて完成させようとしているが
最後のピースになるその時になっても希望のピースは出てこないだろう
なぜなら私は高校3年生でフジファブリックの「虹」を聴きながら涙を流して『殺人鬼 戦慄の名言集』を読んでいたあのIRLの初夏の午後からずっと地獄の中にいるからだ
それはさておき当時のいきなり恋人を通り越して配偶者を得てしまった気分で安心しきっていた
「え、めちゃくちゃ可愛いじゃないですか」
と最初に会った時に言われたというそれだけが理由で付き合ってしまった
今の私からすると付き合っていた時間の実感などはほとんど無い
ダンスサークルの練習は学祭を間近に忙しくなりほとんど会うこともなくなった
ただネット上で話すだけで十分だった
というより、そんなことに構ってる暇はなかった
つまり練習に夢中になって3ヶ月ほどそういったことがなかったしそういったことに興味もわかなかった
そんな中大学が休講になった
どんな流れかは忘れたが私は彼と流山おおたかの森SCまでわざわざ出向いて映画を見ることになった
ついでのように最寄り駅にも行った訳だがこれといって面白いことは起きなかった
そこで見たのが『ジョーカー』だ
発作のように笑い自分を守ろうとするホアキン・フェニックス演じるアーサーの姿を見て早くジョーカーになれと心の中で思っていた
それだけにアーサーが半分ピエロの化粧をした状態で二人の男を銃殺したシーンではポップコーンを丸呑みしそうになる勢いで気分が高揚した
それ以外にも『タクシードライバー』や『キングオブコメディ』の要素が散りばめられていたことにも、ロバート・デ・ニーロが出演していたことにも喜びを感じた
とはいえ
映画を見終わった彼の感想を聞くことは無かった
私は1人でひとしきり感想を喋ったことだろう
思い出すだけで、笑えてくる
今週は忙しかった
ところで、タイプが似た人間がくっ付くのが自然だと思うんです
オタク系ならオタク系
地雷系ならホスト系
そんな感じで
でも私の場合は何が自然なんでしょう?
自分では大分多面的な人間だと思っていて
どれが本来の自分が分からないというか
うーん
やんでないよ?
こんにちは。ねこみです。
今日もきれいな星空があの美術館でみた大きな裸婦の絵画のように私たちを見下ろしているね。
私は今日一日ずっとパソコンを見ていたよ。
虚無だったな!
何にも楽しいことがなかったよ!楽しみな用事が雲散霧消したからね
ゲーム(といっても、みんながやってるバトロワゲームじゃないよ。それをやる環境のないクソみたいな家庭環境だからね!早く一人暮らししたいよ。でも、猫が心配です)して、未解決事件について調べて、アニメ見て、筋トレして、ゲームして、韓国アイドルの動画見て・・・
傍から見たら充実してそうだけど、なん~にもたのしくなかった!
やっぱり恋愛しか勝たん!(アプリを入れる音(なんの解決にもならない音))
もういいよ・・・もう・・・クソみたいな人間しかいなかったとしてもあたしのことをかまってくれればそれでいい・・・
だって、一人なら30分おきの返信も、三人なら10分おきだもんね・・・(謎理論)
でも一週間放置しただけでいいねが200くらい溜まってて振り分けるのくそだるくて開く気にならないよ・・・
ところでオタク系ダンスサークルの動画楽しそうで病んだけどやっぱりダサくてストリートダンスしか勝たんってなった(スクールの予約をいれる音)
てか!!!!!!!!!!ノアの回数50溜まってたwwwwwwwww
社会人になったら週2でいきます()
韓国の練習生の気分ですwwwwwwwww
ガールズのクラスも行ってみたいな~~(まずはハウスやれ)
ところで、私は何者なんでしょうか?望んでいた未来とはなんだったのでしょうか。
しょせん「絵」で描かれる理想は、その時の一瞬を切り取ったものにすぎず、我々の人生は続いてゆくのです。
私も自分の部屋があって、親が他界してくれていれば配信者にもなれたのかもしれませんね。
では考えてみようか。
サブカル趣味を持ちつつも好きな人と一緒にいれて、素晴らしい企業に勤めることができて、二次元でも三次元でも…主に三次元で素敵な人生を送っているわたし。
大学ではオタサーに入ってオタクと楽しいTwitter毎日を送って、自分の部屋でちゃんとしたデスクトップパソコンでゲームをしたり猫耳ヘッドフォンをしたりして、ろくに就職できず、オタクとごたごたを起こしつつ、孤独でニートな日々を送っているわたし。
一瞬を切り取ればTwitterのexciting毎日を過ごしたり配信やコスプレをしていたりする時間は素敵かもしれないね。
じゃあそのあとの人生は?
人間の人生は20代で終わりじゃあないんだよ。
40,50代にだってなる。
その時、どうする?
別に、コスプレや配信ごっこがしたければいくらでもできる。
3か月でプリコネ垢ですら700くらいフォロワー増えたし、ブログのアクセスも2000超えたし(炎上したからだけど)
どうして今の人生を憂う必要がある?
今の人生が素晴らしいじゃないか。
友達はいても常に話してて依存できるような友達(軽いノリで遊びに誘えるような…)がいなくても
好きな人はいても恋人がいなくても
恋愛以外で何のモチベも感じることの出来ない日々を送っていても
恋人という存在がいないといとも容易く溶けてしまうアイデンティティのなさでも
実は自分の顔がそこまで可愛くないことに気付いていても
本当に自分を肯定してくれる存在がこの世にいなくても
今の人生は素晴らしいんだ。
私は人を殺したり、自殺したりしないはずだ。
だって、今の人生が素晴らしいから。
素晴らしくなくなったら分からない。
でもこれを読みにきてくれたってことは(顔があたしの好みであるという条件付きで)あたしのことを支えてくれるってことだよね???
顔がシュッとしてて、髪が長くて、色白で、目が二重で、鼻が大きくない人がいいです!
ぼしゅうしてま~~~す!出会いないけど藁
出会い系はやっぱり嫌なの~~~~~;;
第十五話
学園祭も間近に迫ると、部活動において夕子は傍観者となった。彼女は夜の気配を背中に感じながら、合唱部の練習を座ってみていた。
「入部届けはいつ出すの?」
色んな人に言われるこのセリフに嫌気がさし、夕子は書類を持ってきていた。それは小さく折りたたまれて、制服のポケットに眠っている。
「2枚?」
昼休み、担任教師は、目を丸くしていた。夕子が頷くと、教師は低い唸り声を出した後、席を立ち、2枚の用紙を印刷してきた。
「あまり、お勧めはしません。だって、合唱部でしょう…」
夕子は紙を手渡されると、教室に戻り、書類を書いた。ちょうど、鈴子達は売店か何かに行っていた。夕子はあまり字が上手い方ではなく、不格好な文字が紙面に並んでいた。それは、夕子の不器用な在り方を表しているらしかった。
夕子の中では気持ちは決まっていた。夕子は、ダンス部に入りたかったのだ。
しかし、夕子には簡単にそうは出来ない理由があった。
それは、そのラスト・サンデーに遡る。
夕子は前の席の女子2人と、鈴子と一緒にお台場に来ていた。夕子は、母の選んだ精一杯の女子中学生のおしゃれをしていた。母の女子中学生向けの雑誌による研究の成果からか、夕子は小学生とは一線を画した外見になっていた。夕子は自分を愛してはいたが、セルフプロデュースがなにぶん下手であった。それは彼女自身が、自分を着飾る必要性を最小限にしか感じていなかったためである。
待ち合わせ場所のゆりかもめの改札口では、東京の女子中学生、と言うべき格好の女子3人組が立っていた。
「おはよう。その服、可愛いね」
前の席の女子のうちの1人が褒めた。夕子はホッとすると同時に、それが自分の手柄ではないことを思い出し、赤面した。集団は歩き始めた。遊興施設に向かうまでの間、少女たちは他愛もない会話に花を咲かせていた。教員の話や、他クラスの人間関係の話など…。
「紫雲ちゃん、絶叫乗れる?」
施設に着くと、もう一方の女子が言った。夕子は首を縦に振ろうとしたが、視界の隅の鈴子がの顔が青ざめ、硬直していることに気がついた。夕子は嘘をついた。
「ありがとう…私あんまり、絶叫好きじゃないんだよねえ」
鈴子が言った。2人は、前の席の女子たちが室内ジェットコースターに乗っている間に、ちょっとしたイートインスペースでアイスを食べていた。アイスは、大きな塊になっているものではなく、小さいつぶつぶが大量にカップに入っており、その一つ一つがアイスの塊、という不思議なものだった。夕子はストロベリーチーズケーキ味を、鈴子はチョコミント味を食べていた。夕子はスプーンでアイスのつぶつぶを掬い、口の中に入れると、その不思議な食感と、少し冷たくて舌が凍傷になる感じにびっくりした。
「私、夕子ちゃんが来てくれてよかった」
夕子は、鈴子の言葉にも驚いた。
「ここだけの話ね、あんまり上手くいってないんだ…あの子たちと。」
鈴子はチョコミント味のため息をついた。夕子もそれは薄々気づいていたことだった。だが、それを面と向かって相談されるとは思ってもいなかった。
「合唱部でも、あんまりね…」
鈴子がそうなってしまう理由は、夕子にはよく分からなかった。
「だから、夕子ちゃんがいてよかった。絶対、
合唱部に来てね。オーディションの代わりに、試験があると思うけど、何とかするから!」
夕子が返事をする前に、前の席の女子たちが帰ってきた。
「もったいないよ、乗らないなんて」
夕子たちは曖昧に返事をし、笑っていた。前の席の女子たちは、夕子たちの食べているアイスを買いに行った。
夕子は、ちらりと鈴子を見た。
鈴子も、夕子を見た。
ヒヤリとする感触が夕子の頬に触れた。
ね、おねがい
鈴子の唇が、そう動いた。
第十六話
もっとも嫌いな太陽の角度の中で、
体中が冷や汗に包まれる。
夕子は、視線の中に立って居た。
それは彼女の欲していた憧憬や羨望の眼差しではない。
恥さらしに向ける、哀れみ、怒り、そして、拒絶の眼差しであった。
夕子は合唱部にもダンス部にも入部届を提出していたことが公になったのは、文化祭が終わり、彼女が合唱部の編入試験に合格したのちのことであった。鈴子の助けもあってか、彼女の元々の美しい空気を纏う声のためか、夕子は難なく入部を許されることとなった。鈴子は泣いて喜んだ。ダンス部においても、夕子が入部届を出したことが分かると、聖子は喜び、飛びついてきた。夕子にも分かっていた。兼部、ましてや片方は校内の強豪校とライバルのいる運動部との両立など許されない、ということが。しかし、決断する前の夕子は強気であった。自分になら、他の人にできないこともできるかもしれない、一瞬でもそう思ってしまった、傲慢さが彼女の首を絞めつけた。
「え、紫雲さんって、合唱部じゃないの?」
一年生の女子のこんな会話が、ことの発端であった。人数もすくなくクラスも四組しかない女子校では、情報が伝わるのなどあっという間のことであった。夕子がダンス部と合唱部を兼部しているということは瞬く間に広まり、それは一年生だけでなく、上級生の間にも知れ渡った。こうして紫雲夕子の名は、乙女の赤い吐息に乗って、悪しき方へと飛んで行ったのである。これは当然、夕子の望んでいたことではなかった。そして、想定できた筈なのに、彼女がしっかりと見ていなかった未来なのである。
夕子には、後ろ盾がなかった。そのため、彼女の身を守ってくれる存在はいなかったのである。鈴子ですら、体裁を気にして、夕子から遠ざかった。彼女も当然、夕子がダンス部とも兼部していることなど知らなかったのである。聖子は表向きは話しかけてなど来たが、よそよそしい態度を取った。合唱部に行っても、ダンス部に行っても、夕子の居場所はなく、彼女はただおずおずと、所在なさげに練習に混ざるしかなかったのである。顧問も、まるで彼女をいない存在かのように扱った。夕子は壁の花であった。それはそれは美しい壁の花であった。
当然、学園で形骸化しているシスター制が機能することもなかった。映子は努めて夕子と関わらない様にしたし、露世に関しては、姿を見出すこともままならなかった。
しかし、夕子は決してあきらめなかった。
家に帰り、夕子は事の顛末を母親に話した。母親はその意思の強そうな眉をひそめて、手を額に添えてため息をついた。自然な動作だったが、品のあるものだった。夕子はそういう動作をすることが、まだできなかった。幼少期のバレエの経験からか、形だけまねることはできていた。
「どうしてもっと早く相談しなかったの」
夕子はたじろいだ。そんな選択肢は彼女になかった。本当なら、親から自立して、全てを自らで解決しようとしていたのである。夕子は俯いた。
「いい、今からいう様にするの」
母は夕子にいった。強い目だった。夕子は顔を上げた。
第十七話
乙女を迎え入れる瀟洒な校門も、今や大砲を構えた城壁のようにしか夕子の目には映らなかった。しかし夕子も怯んでばかりいられず、キッと前を見据えて歩き出した。時刻は6時30分、彼女は誰よりも早く学校に着いていた。夕子は誰もいない校舎に向かった。体操着に着替えると、彼女は校庭の片隅でストレッチを始めた。そして、無我夢中に窓を鏡にして踊り始めたのである。次第に生徒の数は増え、窓から美しい黒髪が舞うのをチラと見るようになった。しかしその視線は、腫れ物に触るようなものであった。
放課後になっても、夕子は誰よりも早く体育館に行き、鏡の前で踊り続けた。そして次の日は、朝も昼休みも放課後も音楽準備室で彼女は歌った。この様子を少女たちは訝しげに眺めた。夕子は一切の感情を捨てて練習に励んでいた。
彼女の母の方針通りだった。
そんな日が何日も続いた。夕子は感情の全てを自分の技の習得に賭けた。
ある日、部活が終わり、ダンス部の生徒が帰った後にも夕子が体育館の隅で練習しているのを見て、日本舞踊部の生徒たちが来た。
「紫雲さんだよね」
見ると、2年生の生徒3人らしかった。白粉を塗っている訳でもないのに、白い首筋が印象的であった。
「紫雲さん、上手いよね、うちの方が向いてるんじゃない?ダンス部より緩いから、合唱部と両立できるよ。」
夕子はドギマギして口ごもった。
「突然だとビックリするよね、考えといて。今度見学にも来なよ。」
そう言って、彼女たちは去っていった。
また別の日、彼女が練習をしていると、新体操部の生徒たちもやってきた。
夕子は当然、両方の部活の見学に行った。
その日から、ダンス部の生徒たちの夕子への態度がガラリと変わった。
「やっぱり、ダンスの方が向いてるよ」
「1回入部届け出したんだし」
「合唱部との両立もサポートするから」
「せっかく上手くなってるのに勿体ないよ」
2,3年生のこの態度に、1年生も追随した。
「すごいね、舞踊部にも新体操部にも声掛けられるなんて。」
聖子が何事もなかったかのように話しかけてきた。
次の問題は合唱部だった。合唱部は、顧問の絶対王政であり、彼女が夕子の兼部を心よく思っていないことが一番の癌だった。歌が上手いことよりも、輪を乱さないことの方が求められていた。夕子はいい方にも、悪い方にも目立たないよう心がけた。そうすることが最善策であった。
ダンス部の生徒の態度が軟化した事で、前の席の女子2人は教室でよく話しかけてくるようになった。それに伴って、鈴子も少しずつ態度を和らげていった。しかし彼女としては、部活の体裁上夕子と仲良くしすぎることは悪手であり、クラスと部活の板挟みのようなことになってしまった。
しかし、ダンス部の関係が一段落したおかげで、夕子の気は幾分かよくなった。夕子は練習を続けた。
そんな週の日曜日、疲れた夕子を見兼ね、夕子の母は言った。
「前住んでたところ、いってみようか。」
第十八話
車は日本の中心から少し西側の地域に入った。夕子が幼少期から過ごした街であった。夕子はぼんやりと流れる景色を見ながら、ここがすでに自分のモノではないことを感慨深く実感した。
母は夕子が「計画」のために毎日疲労していることを知った。しかし彼女はそこで6年間の時を過ごすのである。そのため、その場所に対する娘の嫌悪感や、苦手意識が生まれる前に息抜きをさせる必要性を感じたのである。
どんよりとした11月の午後の重たい雲があまったるく空にかかっていた。夕子は母の考えるほど虚弱な神経を持ってはいなかった。
「前の学校も見に行ってみましょ」
母はそんなことも知らず、車を走らせた。
夕子の元居た学校も、以前の居住地からは遠いところにあった。そのため、車で一時間くらい走ると、ようやく近辺に着く、という塩梅であった。
夕子の脳裏には、懐かしく甘い思い出がよみがえっていた。
「電車、一緒だったよね」
夕子は、入学式前のオリエンテーション後に、行きの電車で同じ車両に乗っていた男子生徒に話しかけられた。二人はクラスは違ったが、ホールに一学年全員で集められた時に座る座席が隣であった。彼は安佐井 知(あさい とも)と言う名前だった。私立中学であり、誰一人知り合い同士がいない中で、少しでも顔見知りがいるということは彼らにとって安心できることであった。夕子も初めて学校で話しかけられ、彼の勇気に感謝をした。
二人はオリエンテーションの後、自己紹介をしながら一緒に帰り、それからも電車で鉢合わせたら話したり、廊下で姿を見かけたら手を振ったりする関係となった。
知は男子生徒に珍しく、制服の上に青いベストを着ている生徒だった。他の男子生徒はそのままワイシャツを着るか、セーターを着るかしていた。そのため、彼の姿は見つけやすかった。夕子は、何となくそれに合わせて、いつも青いベストを着ていた。
彼自身もそうであるように、彼の周りの交友関係も地味であった。常におとなしそうな男子生徒か、女子生徒と喋っている様子が見受けられた。夕子はふとその時の彼の顔を見ると、呼吸が出来なくなったものであった。知は決して器量が良いわけではなかったが、人好きする性質で、誰も彼を嫌うものがいなかった。そんな彼が、自分に手を振ってくれる、それだけで夕子は世界に認められた気がして、嬉しかったのである。
しかし、そんな淡い思いも転校と共に消えていった。ただ、優しい音楽、子守唄のように、彼女の心の奥に沈んでいた。
それが今、煩いくらいの耳鳴りとなって、夕子の頭を反響している。
ほのかな期待と共に着てきた、新しい学校の、淑女の象徴が、なぜだか惨めな様相を呈している。
彼女の黒く深い、濡れた瞳に映るのは、見覚えのある青ベストと、見覚えのあるポニーテール、そして、繋がれた掌であった。
第十話
時は流れて11月になり、学生は長袖を着る季節となった。夕子は放課後、前の席の女子生徒に連れられ、ダンス部の見学に来ていた。ダンス部は、朝は校庭で、放課後は体育館棟の2階で練習を行っていた。以前居た共学校では、ダンス部はアイドルダンスを踊っていたが、こちらでは本格的なストリートダンスであった。女子校と言えば創作ダンスであると思っていた、と夕子が言うと、女子生徒二人は眉をしかめて、それはあっちがやるから、と言った。視線の先には、同じく体育館棟2階で練習している新体操部と、日本舞踊部が居た。成程これらの部活は、三つ巴状態でいがみ合っているらしかった。
ダンス部は、文化祭に向けた練習を行っていた。そのため夕子は、今入部しても、文化祭に出演することは出来ないらしく、夕子としては前の学校でも今の学校でも文化祭に出られないことが心残りではあったが、仕方ないと飲み込んだ。彼女の良さは、現実に対する諦めの早さにもあった。夕子はダンス部の基礎練習に混ざっていた。やっていることは前の学校と差程変わらない。しかし彼女には気がかりなことがあった。それは、鈴子の事だった。彼女とも、放課後に合唱部の見学に行く約束をしていたのであった。ダンス部の生徒たちは、夕子が放課後いっぱいダンス部の見学をするものだと思っているらしかった。顧問の先生も夕子の隣にずっと付いている。困ったことになった。夕子は時計をチラチラと確認した。16時15分、あと1時間で部活の時間が終わってしまう。
「大丈夫?」
ダンス部員の1人が、周りの関心が夕子から外れたタイミングで話しかけに来た。
「もしかして、ほかの部活も見に行く予定だった?」
ひどく察しのいい生徒だった。夕子は胸を撫で下ろした。夕子が事情を話すと、彼女は、その旨を顧問に伝え、夕子を解放してくれた。夕子が礼を言うと、彼女は笑って、
「じゃあ絶対ダンス部に入ってねー」
と言った。彼女の名前は黄紅井 聖子であった。この一言が、夕子のその後を大きく変えることになったのは、言うまでもない。
第十一話
夕子は中央棟の階段を登り、第一音楽室の前に着いた。天使、そんな言葉が、夕子の頭に浮かんだ。少女たちの織り成す旋律は、まるで夕暮れの天使のもののようであった。ただ、練習中ともあり、なかなか入り難い張り詰めた雰囲気で、夕子はドアの窓からそっと中を伺っていた。あれほど美しいハーモニーを奏でられる、言わば強豪校の部員たちに、顔を覚えられたくなかったのである。あれ程意気揚々とデビュタントに臨んでいた夕子も、及び腰になっていた。
しかし、夕子の姿に気づいた者がいた。合唱に混じらず、歌を聴いている集団の中に、鈴子がいたのである。彼女はドアの窓に映る夕子に向かって手を振った。すると、周りで歌を聴いていた女子生徒たちも夕子の方を見た。顧問も見た。歌っている少女たちも、見た。夕子の足は竦んだ。顧問がドアを開けた。濃く描かれた眉毛と目尻から、芯の強さ、そして合唱の強豪集団を作り上げる威圧感を感じ取れた。
「編入生?見学なら早く入んなさい」
夕子は、おずおずと音楽室に足を踏み入れた。女顧問は、ドアを閉めながら、鈴子の方をチラと見た。
「紹介して」
鈴子はおそるおそる立ち上がって、夕子のことを紹介した。夕子には何だか、それが大変不憫に見えた。
第一音楽室は、ブラウンの床も、ホワイトの壁も、木で出来ていて、なんとも古めかしい感じがした。夕陽が木を照らすからか、オレンジ色の部屋中に懐かしい匂いが立ち込めていた。
夕子は鈴子の隣で椅子に座って練習の様子を見ていた。どうやら今は、文化祭の練習中らしく、やはりここにも、夕子の出る舞台はなかった。
練習が終わると、鈴子は近づいてきて、言った。
「合唱、どう?興味湧いた?」
夕子は曖昧な返事をした。しかし鈴子は言った。
「合唱部、入ってよ。お願い。」
冗談めかして言っていたが、なんだかその声の響きには、悲壮感を感じられた。
第十二話
それはまるで謁見であった。
王女の雪解けのような白い肌に照らされ、黒い制服はまるで白い衣裳のようであった。
王女の髪は茶色がかっていて、夕陽の下では白っぽく見えた。
色素の薄い目は、優しげに彼女を眼差しでいた。
形のいい薔薇色の唇は、ふわりと結ばれていた。
纏う空気は周りの者を圧倒する威圧感と、蕩ける様な甘い官能を兼ね備えていた。
放課後、慣例として、夕子はシスターである映子と待ち合わせをしていた。事務手続きの言伝や、今日一日で感じた不安感、感想などを述べたり、連絡先を交換したりするためである。夕子は音楽室を後にして、昇降口へと向かった。部活終わりの多くの学生が行き交っていた。夕子は映子の姿を探し、靴を履き替え外に出た。映子は花壇に囲まれた噴水の下のベンチに座っていた。部活終わりだからか、その肌は汗の痕で光っていた。そこには、もう1人、生徒がいた。
「ごきげんよう」
他の人が言っていたら吹き出してしまうような挨拶を、その人はいとも自然に言った。初め、その言葉が発されたことに、夕子が気づかないほとであった。
その美しい人は、白雪 露世といい、映子のシスターの3年生の生徒だと言う。
勿論、夕子や映子も整った顔立ちをしているが、露世のそれは、常軌を逸していた。
あるいは、顔立ちそれ自体は整っていないのやもしれない。しかしそれすら分からないほどに彼女に備わった仕草や居立ち振舞は完璧なものである。
軽い挨拶と、今日の報告を済ませ、3人は解散したが、家に帰ってからもうつくしい人のイメージは、夕子の脳裏に焼き付いて離れなかった。
では、露世と会った人物が全て彼女の瘴気に充てられるのであろうか。
否、
それは夕子だけであった。彼女以外の人間には、露世の纏うあやかしに気づくことなく、彼女を汎用な一生徒として捉えたのであろう。
そのいい例が映子である。
白雪露世という少女が、鍵穴にカチャリ、と鍵が噛み合うように、噛み合った瞬間に、夕子の瞳孔が開き、指先がツンと痛み、頭が焦げ付いたように、夕子の知らなかったものを体現した存在だったのである。
それは、官能でも、頂点でも、恋慕でもなかった。
その感情は、簡単なものであった。
LONGING
それ以外の何者でもなかった。
第十三話
転入から3日、決して優柔不断な訳でもないが、夕子は未だに部活を決めかねていた。1日置きにどちらかの部活の見学に行っていた。
夕子は、秋の肌寒い朝の教室で、単語テストの勉強をしていた。
「おはよう」
鈴子がカバンを下ろし、話しかけてきた。
「おはよー」
前の席の2人の女子も、同様にしてきた。
「今度遊びに行くんだけど紫雲さんも来る?」
夕子は嬉しさに飛び上がりそうになった。まさか、転入3日で遊びに誘われるだなんて、考えていなかった。夕子は、悲観主義者であった。その後話は進み、4人でお台場に遊びに行くことになった。この話は、母にしたら喜ばれるだろう、そんなふうに夕子は思った。
晴れやかな気持ちで話していると、副担任の若い女性教師が教室に入ってきた。女子生徒たちは、シーンとする様子もなく、談笑を続けている。
「紫雲さん、ちょっと。」
夕子は立ち上がり、スカートの裾を直すと、教壇に向かった。
「あ、私は副担任の佐倉八重子といいます。今日は担任がいないので、私が代わりに担任をするんです。それでね、」
八重子は教壇に荷物を下ろすと、書類を漁り始めた。が、なかなか見つからない。夕子は零れる八重子の茶色い髪の束を見ていた。量の多い髪の毛には、パーマが大きめに、緩やかにかかっている。そして、その影は菫色のニットに落ちかかり、豊満な胸の上で揺れていた。夕子にはひとつの哲学があった。それは、女性の最も理想の形は、全てを跳ね除けるような高貴さを持つこと、そして、もうひとつは、全てを包み込むような、この世の人間の母のような姿であることだった。八重子はまだ若く、未熟ではあるが、何れ成熟し、母としての存在となり得るだろう、と夕子は思っていた。自分自身は、前者になりたかった。それは、彼女自身の母の影響に拠るところが大きい。が、彼女の母もまた、一人の少女の母なのである。その矛盾に、夕子は気づかずにいる。或いは、気づいていて、その欠陥を埋めようとしているのやもしれぬ。だが、夕子のその形のいい可愛らしい唇は、何者をも拒むようには感じられない。彼女は、愛されるべき対象として生まれてきた筈である。しかし、これらは全て人間の外側であり、魂の問題は別なのである。夕子はその影に心を奪われつつも、視線に気づかれずよう、八重子の絶えず動くふくよかな腕から注意を離さなかった。
「あ、これ。」
八重子はどうにかプリントを取り出した。
「委員会に入ってもらわないといけないんだけど、生憎うちのクラスでは図書委員が人気がなくて、誰もいないの。私が担当なんだけど、図書委員をやってもらってもいいかな?」
夕子は書類に記入するために席に戻った。
「あの人、新任の先生なんだよ」
鈴子が言った。前の席の女子は、まあ女子校にしか就職できないよねえ、あれじゃ、男の子は大変でしょう、などと言い、キャッキャと笑った。夕子は八重子の方を見た。彼女は垂れ目がちな目で、夕子を見た。そして直ぐに、視線を書類に落とした。
第十四話
昼休み、夕子は図書室にいた。図書室は音楽室の真上にあるにも関わらず、防音設備が整っているのか、トランペットの音1つ聞こえてこなかった。代わりに、穏やかなクラシックのピアノが流れていた。
「ありがとう。人が足りていなかったの。」
八重子は、司書席の座ってパソコンを触っていた。夕子は水曜日と木曜日の昼休みに、八重子と一緒に本の貸借を管理する係になった。
「司書さんのひとりが産休でお休みを取っていてね。」
夕子は図書室を一周した。ふんわりとした新しい絨毯は、暗く、濃い赤色をしていた。
司書席は1番奥の書庫の前にあった。そして、すりガラスの窓の傍に閲覧スペースがあった。あとは全て本棚である。夕子は柔らかな光の当たっている閲覧スペースに腰掛けた。校舎に取り囲まれている校庭が見える。
昼休みだからか、校庭は閑散としていた。
「学校は慣れた?」
気がつくと、八重子が隣に立っていた。いくつかの本を抱えている。夕子が頷くと、八重子は優しく微笑んだ。
「困ってることがあったら、先生に相談してね」
放課後になると、夕子は再び選択に迫られた。合唱部か、ダンス部か。夕子はそれを選べなかったので、放課後は交互に練習に出向いていた。
今日はダンス部に行く日だった。更衣室のドアを開けると、前にも話しかけてきた黄紅井聖子(まりこ)が真っ先に声をかけてきた。
「入部届け、持ってきた?」
夕子が首を振ると、聖子は残念そうに肩を竦めた。
「迷ってる部活でもあるの?」
夕子は口ごもった。ここで何かを言うべきではない、と思ったのである。夕子が無言でいると、聖子は早めに決めた方がいいよ、と言った。
今日も基礎練習から始まった。夕子としては、早く振りを踊りたかったので、基礎練習は退屈であった。
ぼんやりと窓から見えるバレー部や陸上部を眺めていると、映子の姿が見えた。部活のことで悩んでいると相談しようかと思ったが、何となく、映子には近寄り難いものを感じてしまった。
それと同時に、夕子はあの美しい人について思い出した。白雪露世。彼女のやわらかなまつ毛。
そんなことを考えているうちに基礎練習が終わり、振り入れの時間になった。
夕子は踊るメンバーには入っていないが、傍で振りを覚えて、一緒に踊った。
「やっぱり、うちに入った方がいいよ」
聖子が言った。夕子の気持ちも少しだけ、そちら側に振れた。
昇降口に着くと、合唱部も丁度練習を終えていた。その中には、鈴子の姿もあった。その形のいい口は、「あ」という様に開いた。夕子はどうしようもない気持ちになった。