そよかぜ便り

些細な日常をお届けします!

連続テレビ小説 ゆうぐも 総集編2 パッセ編

第六話

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「次の学校に行っても、私の事覚えていてくれますか…?」

 

前の学校で、夕子は疎まれていた。

新しい環境に在る時、人は自分を強く見せようとする。特にそれが中学生という、まだ子供の領域に居る段階であれば。彼らはそれとなく、自分の家柄を、学歴を、素晴らしさを、披露しようと鼻息を荒くしていた。しかし、夕子は自分の庶民性を垣間みせたり、面白おかしさを披露したりと、その逆を往こうとしていた。自分を弱く見せることで特異性を発揮したかったのであろう。

もちろん、そんな小賢しさは、進学校の生徒たちには見抜かれてしまうものである。というより、「いやみ」に映ったとでも言った方が早いだろうか。周りから人はいなくなり、彼女は孤立した。表面上は変わらぬ態度であったが、「あの子はちょっと違う子」として、距離を取られていた。

夕子はというと、自身の作戦の思わぬ失敗―彼女が同級生たちを見くびっていたとも言える―に慌てつつも、転居による転校が予め分かっていたので、狼狽えはせず、冷静な態度であった。

孤立する彼女の姿を美しく感じた者も居た。それは、彼女のクラスメイト、水野仙子(みずのせんこ)であった。

仙子も復た、学級内で孤立していた。仙子は風変わりな少女であった。見た目は清潔感もあり、細身で、整った顔立ちをしていた。1本にまとめられた髪と、顔にかかる長い前髪は透き通るような色で、前髪の隙間から見える額は瑞々しかった。その麓には冷酷な印象を与える切れ長の目が二つ付いていた。しかし中身はというと、とにかく騒がしく、場合を弁えない質であった。学級長だろうと、集会の挨拶だろうと、生徒会だろうと、委員会だろうと、何にでも立候補していた。そして、誰にでも話しかけ、散弾銃のように唾を飛ばして喋り続けた。授業中でも先生に話しかけ続けた。当然のことだが、優秀な子どもの多い教室では、いじめはおきない。ただ、緩やかに、出る杭は打たれるのであった。仙子の言葉は柔らかいクッションで受け流され、生徒からも教師からも疎ましがられていた。

仙子は夕子にも頻繁に話しかけた。夕子はこれと言って疎ましがることもなく、仙子の話によく付き合っていた。すると仙子は彼女に懐き、どんな時でも寄ってくるようになった。登下校、昼餉、教室移動、掃除…いつでもである。

夕子は特に迷惑がることもなく、また、自身が孤立していることも加味して彼女と居るようになっていった。一人でいるよりは居心地がよかった。

 

第七話

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夕子は決して体を動かすのが得意ではなかったが、ダンス部に所属していた。何処の学校でも往々にしてそうだが、ダンス部というだけで、一目置かれるからである。また、夕子にはこれといってやりたい競技もなかった。

ダンス部の部員はやはり派手好きというか、常に異性の目を気にしているような女子生徒が多かった。彼女たちは思春期特有の匂いを振りまきながら、他者の目があたかも刺さっているかのように気にしては媚態を振りまいていた。

夕子はそこから一歩引いて、深く関わるでもなく、避けられるでもなく、存在しているに過ぎなかった。

仙子が来るまでは。

水野仙子はそれまで入っていた空手部を辞め、それを口外はしなかったものの、夕子を追ってダンス部に入部してきた。夕子は何となくそれを察したが、悪い気はしなかったのであろう、仙子をサポートし、上手く部活動に参加できるように取り計らっていた。

仙子は何にでも立候補する押しの強さとかしましさから、学年の他の生徒からも知られていた。そのため、ダンス部の女子生徒たちは、彼女の入部に難色を示した。そしてそれは、「仙子を連れてきた」夕子にも飛び火した。彼女たちは夕子たちから距離を置いた。

しかしそれは、仙子にとっては好ましい事態であった。夕子にも損害はなかった。二人は、より濃密に結びつくこととなった。

 

7月になると、プールの授業が始まった。女子特有の問題のため、致し方ないと思うのであるが、まだ考え方の古い進学校では、男女問わず、不参加が3回を超えると夏休みに1時間泳がされた。夕子は既にリーチであった。次に休むと、夏休みに泳がされることになっていた。

その日は気温が高く天気も良く、プール日和であった。夕子にとっても普段は憂鬱なプールが少しだけ楽しみなものとなっていた。昼休みが終わると、夕子は仙子と共に更衣室に向かった。更衣室はプールと同じ建物にあった。

しかし、夕子は草のツルに足を引っかけ、盛大に転倒してしまった。残念ながら、彼女は夏休みに泳がされる羽目になった。

仙子は既に補講が確定していたので、それを喜んでいた。

 

第八話

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それは太陽がうるさいくらいに照りつける朝であった。

夕子は夏休み以降は学校を辞めてしまうので、補講も、部活も行く必要はなかった。しかし、自分の意思で夏休みの間は元の学校での夏休みを過ごすことを決めていた。

水泳バッグを持って正門に着くと、顎元から汗を垂らして、仙子が待っていた。

「これだけ暑いと、早くプールに入りたくなるね」

二人はプール棟に併設された小汚い更衣室に入った。女教師が、プールを解錠する。今日の補講は2人だけだった。

照明の着いていないうす暗い部屋には、窓から木漏れ日が差し込んでいた。蝉の羽音がけたたましく鳴っている。

「じゃあ、5往復したら、タイム測定ね。」

プールの広さにも関わらず、仙子は別のレーンに入らず、夕子の後ろを泳いでいた。

夕子は水をかき分けながら、床に反射する光の美しいのを見た。そして、軽く潜水してその光に触れた。

浮上する時、何かが足に触れた。

夕子は驚いて水から顔を出し、振り向いた。すると、仙子がプール帽とゴーグルの下で、白い歯を剥き出しにして笑っていた。

途端、夕子の体にぬるりとした感触が貼り付いた。仙子は夕子の首筋に腕を回していた。

「今、先生いないから、遊びたくなっちゃって」

と言っても、女教師も少し何かを取りに行っただけで、すぐ戻ってくるだろう。怒られたり、面倒なことになったりするのを嫌う夕子は、優しく仙子から離れ、水を蹴って再び泳ぎ出した。

だが、仙子のいる場所はちょうど水深が深く、仙子は足が付けず、体勢を戻せずにいた。

夕子は仕方が無いのでその手を掴んで泳ぎ出し、仙子は体勢を立て直すことができた。暫く二人は手を繋いだまま泳いでいた。

 

補講が終わると、夕子たちは体に貼り付いた、水を吸った水着を脱いで、制服に着替えた。首にタオルを巻きながら、耳に入った水を抜いた。

「この後、お昼食べない?」

仙子が言った。夕子は、仙子と1度も二人で遊んだことが無かったことに気がついた。

 

蝉が鳴いていた。夏の真っ盛りである。太陽は、これでもかと言う輝きを二人の濡れた髪に落としていた。

 

第九話

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夕子は生真面目な質であった。部活の練習にも欠かさず参加していた。だが、部としては彼女が11月に辞めることが分かっていたので、大会向けの練習の時は、彼女は一番後ろのポジションで踊らされていた。彼女としても、それは問題がなかった。一つ気がかりだったのは、仙子のことだった。夕子が辞めた後、彼女はどうするのだろうか。仙子は運動神経がよく、なかなか重要なポジションに付いていた。だが、彼女は、部活でやっていけるのだろうか。世話焼きではない夕子にも、そのことは心配であった。夏休み中、部活が終わると、二人は必ず一緒に帰り、学校の近くの繁華街の、何処かに立ち寄っていた。レストランやカラオケ、カフェなどで夏の課題を終わらせたりー夕子は取り組む必要もなかったが、律儀な性格故、しっかりと終わらせていたー、ボウリング場やゲームセンターで遊んだりと、残された時間を、花弁をゆっくりと千切るように、過ごしていた。夕子は、ぼんやりと柔軟体操をする仙子の短くなった髪を見ていた。そして無意識に自身の、少し短くなった髪を触った。

夕子が仙子の髪を切ったのは、夏休みに入ってすぐの、部活が始まる前であった。

「今日、両親がいないんだけど、うちに来ませんか?」

更衣室で着替えながら、仙子はいった。制汗剤の柑橘類の匂いが、夕子の鼻をついた。地面には、花が咲くように、少女たちの制服のスカートが広がっていた。彼女たちは、スカートを履いたまま、ズボンを履き、ズボンを履いてから、地面にスカートの花を咲かせるのである。そしてそれをそのままに、上半身の着替えをしていた。誰が始めた訳でもないこの着替え方は、いつしかこの部活に広まっていった。だからダンス部が更衣室を使う時、リノリウムの床に、スカートの花が咲くのである。

蝉の声をバッググラウンドに、二人はいつもより二駅遠い駅で降り、仙子の家まで歩いた。20分ほど歩いただけで、彼女たちは汗だくになっていた。仙子は家に入るや否やクーラーを付け、氷の入った麦茶を、カラカラと音をさせつつ運んできた。

「ついでだから、やっちゃおうか。」

仙子はスズランテープの束を運んできた。二人は部活で使うポンポンを作る役目を任されていた。クーラーの効いた部屋で、汗の乾いてきた肌にほんのりと涼しさを感じつつ、様々な話題が机上に飛び交った。

部活のこと、生徒会のこと、クラスのこと、そして、夕子の想い人の話まで。

しばらくして、仙子は、髪が長くて夏が大変だ、というようなことを言った。

夕子は仙子の髪を見た。スズランテープと似た光沢。

ふと気づくと、夕子は、先程までスズランテープを切っていたハサミを、仙子の髪に入れていた。仙子は目を丸くした。髪の毛が、机上に落ちた。

その後、どちらともなく立ち上がり、二人は縁側に出た。仙子は何かを期待しているかのように目を瞑った。夕子はその髪を一心不乱に切っていた。

そして、仙子も仙子で夕子の髪を切ろうとした。しかし、その手は震え、僅かな毛先しか切ることができなかった。

2人は、我に返ると鏡を見て、大慌てで最寄りの美容室に駆け込んだ。

「こんなに短くなったの、初めて。」

ボブヘアーになった仙子は、首筋に夏風の涼しさを感じてか、擽ったそうにしていた。

入道雲が訪れる夕立を予告して、二人の涼しくなった頭の上を、ゆったりと流れていた。

彼女の最も忌む時間が、すぐそばに、迫っていた。

 

連続テレビ小説 ゆうぐも 総集編1 デビュタント編

第一話

ピンクに滲む夕暮れの空│北竜町ポータル

私はサガンにはなれなかった。別になりたくもなかった。

嘘、なりたかった。

でも、そんなことはどうでもいい。

 

彼女はららぽーとの服屋から出てきた。黒い制服を纏って。その顔は赤く上気していた。彼女の頬を染めていたのは、他でもない、彼女自身に値札が付くからである。

 

彼女のデビュタントは、明日だった。明日、彼女は評価をされるはずだった。何故ならば、彼女にはそれに相応しい器量と、話している誰もを魅了する機知があったのだから。

 

彼女はららぽーとの服屋の紙袋を大事そうに抱えながら、美容院に向かっていった。

美容師は、いつも彼女の黒々とした髪を切っていた。しかしその髪は決して美しいものではなかった。

 

彼女は髪にパーマ液の匂いをさせて、美容院を後にした。彼女の髪は絹の様に美しいものになっていた。

 

フードコートには彼女の母親が待っていた。彼女の母親は大層厳格な人であった。家は裕福ではなかったが、紳士的な祖父と、没落貴族の血を引く祖母の血筋のためである。彼女の品のある天性の仕草は、恐らくそういったルーツがあった。

 

彼女たちは車に乗った。明日の反応を楽しみに。そして、輝かしい未来に胸を躍らせて。車は丘を越えた。川を越えた。彼女の髪は空いた窓からの風でたなびいた。パーマ液の匂いを香らせて。

 

窓の外に見える空は夕暮れだった。紫色の空が、秋の寂し気な川に反射していた。木々は裸であった。紫色は、彼女の一番似合う色であった。官能的な、ボルドーの唇に。薔薇が咲いたような、その頬に。彼女の名は夕子。この時間、誰よりも主役でいられる名であった。そして、彼女が最も忌み嫌う時間を体現した名前であった。

 

第二話

 

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夕子は吊革に捕まり、電車に揺られている。今日が初登校である。夕子は東日本に生まれ、西日本に移り、再び東に帰ってきたのである。しかし住宅の手配が進まず、転居は彼女の入学に間に合わなかった。そこで、11月になって、夕子は編入することとなった。

夕子は、着ている制服が自身に与える価値を周囲の視線から感じ、少し気が昂った。落ち着くために、流れゆく景色を見ながら、前の学校でのあれこれに思いを馳せる。これから行く学校は女子校である。前の学校は共学校であった。彼女には想い人がいた。

しかしそれももう、昔の話になる。

隣では母が真っ直ぐ前を見つめて立っている。夕子は不安げにその横顔を見る。自身の目とおなじ目には、自身のものより長く、上を向いた睫毛が生えていた。

「もう着くよ」

母は前を見たまま言った。

夕子の胸は高鳴った。ずっと憧れていた、瀟洒な学校。入学試験以来、訪れたことはなかった。その中高一貫の花園は、オフィス街にあった。夕子と一緒に、大量のサラリーマンが降りていった。

地上に出て数分で、その花園はあった。

オフィス街の片隅にある故、広すぎも豪華すぎもしないが、新しく、小洒落た校舎だった。正門から校舎に続く道は小花に彩られていた。花のせいか、清潔感溢れる香りがした。また、合唱部の朝練か、美しい歌声が聞こえてきた。

約束の時間の5分前には到着していたにも関わらず、既に校舎の入口には案内役の先生と、もう1人、女子生徒が立っていた。

「おはようございます。」

母が言うと、2人も同じように返した。夕子は、その挨拶が「ごきげんよう」では無いことに少し驚いたと共に、そんな想像をしていた自分がおかしくて、笑いそうになってしまった。しかし、女子生徒の視線に気づき、ハッと息を飲んだ。

その女子生徒は頭から足先まで夕子を舐めまわすように見た。まるで、値踏みするかのように。

「説明にもありました通り、彼女が紫雲さんのシスターです。」

これが夕子と筒地映子の出会いであった。

 

第三話

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夕子の通う中高一貫校は、宗教系の学校ではなかったが、戦後にできた比較的新しい学校であるため、他校のいい所を盗んでいた。そのひとつがシスター制である。

一つ上の学年にシスターがつき、面倒を見たり、相談に乗ったりする仕組みである。生徒はこれにより、コミュニケーション能力や責任感、面倒みの良さを身につけていくという。トラブルもつきものだと想定されるが、そういった場合にはシスターは変更されたり、誰かが掛け持ちしたりする。

夕子はこのシスター制に大変惹かれていた。自分だけの特別な存在ができるというのは、それだけ嬉しいものなのであった。

だが実際、この仕組みは形骸化していて、シスター同士は疎遠になっていることが多かった。

 

映子は夕子に校内を案内した。映子はスラリとした背の高い女子生徒だった。膝下までの長いスカートから覗くふくらはぎは引き締まっていて、少し日に焼けていた。ポニーテールの下の項も、ほのかに太陽の痕が残っていた。

昇降口から入り、まず、吹き抜けの空間があった。校舎はいくつかの棟に別れながら、広い中庭を取り囲むような回廊型のものになっていた。外部から見られるのを塞ぐのにいいシステムだろう。校庭はなく、外体育や部活はこの中庭で行われるらしかった。プールは体育棟と呼ばれる体育館のある建物で行われていた。

「あれがダンス部。うちには、舞踊部、ダンス部、体操部って、似たような部活が3つあるんだよね。」

ガラスの向こうに見える中庭では、ダンス部の生徒たちが何やら騒がしい音楽で朝練をしていた。朝の光が少女たちの肌に落ちかかる汗を照らしていた。

「私はバレー部に入ってるの。うち、球技系の部活は少ないんだけどね。バレーとバスケが1番人気。次にテニスかな。」

テニス部も遠くで練習していた。夕子は踊る少女達を見て、前の学校でもやっていたダンスを続けようと考えた。

2階に上がると、合唱の声が大きくなっているのが聞こえた。第1音楽室で、合唱部が練習していた。吹奏楽部はというと、別校舎にある第2音楽室で練習しているようだった。

「うちの学校は合唱部と吹奏楽部が強豪で二大巨頭だからわざわざ棟を分けて音楽室を配置してるんだよ。」

と、映子は言った。

「入るのも難しくて、オーディションがあるから、紫雲さんが入れるなら、高校からになるね。」

夕子は合唱に興味があるわけではなかったが、高校からなら、初めてもいいか、なんて思っていた。

「教室棟はこっち。高校と向かい合わせになってるの。」

教室は1年生が3階、2年生が2階、3年生が1階にあった。若いうちに体力を付けろという意図があるのだろうか。

 

映子の案内が終わると、夕子は1人階段を登り、教室に向かった。彼女の黒いスカートの裾が、階段を上がる度にふわふわと揺れた。

愈々、彼女のdebutanteである。

 

第四話

 

 

ホームルームが始まるところで、1年風組の教室前には担任教師たちが待機していた。彼女たちは時間ぴったりに教室に入っていく。夕子の姿を認めると、担任の女教師は相好を崩した。それは夕子の器量のためである。女教師はその容姿から、彼女が排斥されることはないと踏んだのである。

教室とは、かくも残酷なものである。

女教師と共に教室に入ると、それまでざわついていた教室が水を打ったように静まり返った。少女たちは見慣れぬ顔に目を丸くした。そして暫くすると、ヒソヒソ話を始めた。彼女たちは早速、転校生の品評会を行っていた。

夕子が名前を言うと、教室から拍手が起きた。彼女は「認められた」ということであろう。

彼女には席が割り当てられる。ちょうど欠けていた40人目の席に座ることになった。彼女が歩き出すと、黒い服の少女たちは、風に揺れる植物のように身をかわし、既にある通り道を広くした。彼女たちが上体をずらしたとき、それぞれの花の香りが夕子の鼻腔を着いた。

これが女子のみの学校…。夕子はその華やかさに些か面食らっていた。

 

ホームルームが終わると、正式な始業までに暫く時間がある。勿論彼女は話の中心であった。あれやこれやを聞かれるうちに、彼女は何となくクラスに馴染んで行った。それはなにより、彼女の美しく、少しだけ腫れぼったい濡れた唇から零れ出る言葉が無難なものであると共に、その容姿、黒々とした肩下までの髪と、薔薇色の頬、美しい歯並びに拠るものであった。全身が彼女自身を品のある鑑賞物として仕立て上げていた。

しかし彼女の脳裏にはひとつの危惧があった。

それは母の言葉である。

 

イオンモールだとか、吉野家だとか、マクドナルドだとか、ファッションセンターだとか、言わないように。」

 

庶民派の乙女はチェーン店に心酔していた。それは何より、彼女が倹約家であり、家が裕福な訳では無いからであった。夕子は高水準の暮らしはしていたが、それが無限に安定しているほどのものではないことを自覚していた。そのため彼女は決して高額のものを買わなかった。安いものを高く見せる技術に長けていた。

以前居た共学の学校も、ある水準以上の暮らしをした者しかいなかったが、彼女は自身の暮らしを臆せず周りに披露した。

結果、転居が決まっていたから良かったものの、彼女は疎まれた。

そのため母は、一番に彼女の貧乏性を、その青春を壊すものとして恐れ慄いていたのである。

 

そして、夕子自身も自らそれを意識した。

 

第五話

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夕子が何気なく、当たり障りなく会話を交わしていると、始業の時間となった。学力が変わらない学校に推薦で編入してきたため、授業の難易度はそれほど上がらなかった。しかし、周りの集中度合いは、以前の学校の方が高かった気がする。ポーズは、成程今の学校の方が遥かに集中している。先生がチョークの色を変える度に、教室中にペンのカチャカチャ音が鳴った。だがそれはあくまでも美しいノートを取るためで、花の香りのする少女たちは内心上の空で授業を受けている、フリをしていた。

夕子はこの柔らかな光の膜に包まれたような雰囲気に驚いた。時間がゆったりと流れて行った。

2度の休み時間を超えると、夕子の周りの人だかりも減っていった。その中で、彼女はクラスには既にいくつかの派閥があることに気がついた。その中の、どこかに入れるだろうか。

「紫雲さん、私たちと一緒にお昼食べない?」

昼休みになると、隣の席の女子生徒が彼女に話しかけた。夕子は承諾した。すると、隣の席の女子、そして前の席の二人の女子は机をくっつけてきた。

「じゃあ私たち、お昼買ってくるね。」

前の席の二人は財布を手に教室を後にした。夕子は白い風呂敷に包まれた弁当を取り出す。

「紫雲さんって、部活とか決めてるの?」

夕子は顔を上げた。隣の席の女子は胆吹鈴子(いぶきりんこ)と言った。

「あ、まだ入って初日では決まってないよね。」

彼女は本当は決まっている、と言おうと思い口を開いたが、鈴子の言葉に同調しておいた。

「そしたら、色んな部活見学してみたらどうかな?」

そう言って鈴子も弁当を取り出した。

「私は合唱部だから、言ってくれれば紹介するよ。」

夕子は、二人が帰ってくるまで弁当を開けないべきなのだろうかと思っていたが、鈴子は何食わぬ顔で弁当を開けて食べ始めた。夕子もそれに倣った。

「あ、朝練ちょっと見たんだね。合唱部は大変だけど、人数多いからサボろうと思えばサボれるんだよね。」

夕子の弁当は和食であった。普段は洋食、和食、購買の繰り返しである。好物の唐揚げが入っていることに頬が綻んだ。

「今日はホイド買えたね~」

暫くして前の席の二人が帰ってきた。二人はいつも購買で買っているらしかった。二人ともサラダと、人気商品で、いつもは直ぐに売り切れてしまうというホイップクリームの挟まれたドーナツを手に持っていた。

「何の話してたの?」

「ああ、部活ね、うちらはダンス部。」

ダンス部。夕子が反応すると、鈴子は「ダンス部興味あるんだー」と言った。

「え、前の学校でもダンス部だったの?即戦力じゃん!」

前の席の女子の1人が言った。

「今日見学来なよ。」

もう1人が言った。

 

そして放課後、夕子は合唱部とダンス部の見学に行くことになった。

 

EVERYTHING IS IN MY DREAM

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三島由紀夫という太陽が日本から消えた5年後

日航123便御巣鷹山に消えた10年前

あの夏の日

あのこは僕に秘密基地で教えてくれた

神社の裏の、藪の中の秘密基地

中学に入ったらオーディション番組に出る ということを

あのこは赤いワンピースと白いソックスと、キャメルの靴でひらりと回って

流行りの歌手の曲をカセットと一緒に歌って見せた

あのこは黒目がちな目を細めて笑った

その目はぼくの左手が上手く動かないことを笑ったあのときと同じだった

ぼくは野球の約束があったから、また今度といって走って逃げた

あのこはその後、秘密基地にきた知らないおじさんについていって

そのまま帰らなくなった

ぼくは家に帰ってそのことを聞いて秘密基地にいった

やけにでかい夕日が神社の境内を照らしていて気持ちが悪かった

ひぐらしの声がした

秘密基地には、カセットが残されていた

どうしてついて行ってしまったんだろう

あのこはぷっくりとした可愛い体をしていた

まだ子供用の下着だからかせり出した胸の形と

ヒラリと舞ったスカートの裾から覗いた白い腿の

魅力的だったことを覚えている

それから10年が経ってぼくは大学生になった

引きこもってばっかだったぼくは

半ば追い出されるように大学にいった

大学の人たちはとても冷たかったけど

1人だけ良くしてくれる女の子がいた

彼女はぼくを映画に誘ったり、クラブに連れ出したりしてくれた

けれどもぼくは彼女に対してexcitation sexuelleを感じることが出来なかった

そしてぼくは彼女に部屋の棚を埋め尽くすビデオのことを話せなかった

彼女は時折ぼくに寄りかかったり、ぼくの目を覗き込んだ

黒目がちな目で見つめられた時

ぼくは責められているように感じた

どうして、普通の人のように、成体の女を欲望することができないのか、どうして、私を欲望しないの、と

ぼくは自分が不能者のように感じた

彼女は何も知らないふうにしてぼくの周りを蝶のように飛んだ

ぼくは彼女の撒き散らす鱗粉に充てられたようになってビデオを増やしていった

そして街を歩く少女たちに目を奪われた

そうだ

あの時からだ

ぼくのなかで何かが変わっていったのは

赤いスカートの中に覗いた本当に求めていたものがいつの間にか姿をかえて

ねずみのような顔をしてぼくを見ていた

覚えているかい?

きみはひとりでマンションの前にいたね

ぼくはその手を取ったね

そしてきみはあのこと同じようにぼくの手を笑ったんだ

 

 

 

 

 

You Should Be Made To Look

Ooh, I could not have my Gucci on
I could not wear my Louis Vuitton
But even with anythin’ on
Bet I couldn't make you look 
Yeah, I don't look good in my Versace dress 
But I’m not hotter when my morning hair’s a mess
‘Cause even with my dress on
Bet I couldn't make you look 

ぬるい支配しかできない人間って弱者だよね

出会う場所さえあれば好き放題できるのに

でも出会う場所がアプリなのって夢がないの

でも出会うきっかけを探すのもめんどくさいの

でもわざわざ好かれるまで努力するのもめんどくさいの

でも好かれたらどうでもよくなるし

でも離れて寂しいのも嫌なの

わたしって可哀想

こんなに周りから愛されて好かれて(※第一印象)

それだけの価値があるのにどうして?

待って待って仮の話

わたしがいけてない子だったらどうする

そういう前提・・・

でもそれなら最初から恋愛とかそういうの興味なくないけど諦めてる系のスタンスでいったほうがモテるんじゃね

でもそれって楽しくないでしょ

でも努力するのって楽しいしそれは自分のためではあるけどモチベになるんだよね

でもわたしって結局うまくいくとおもってるしな

実際きっと社会人になっても何にも環境変わらなくて

ところであたしが他の人のものになったら嫌みたいな段階ってもはや飛び越えて達観してどうでもよくなってそうだよね

もっと可愛くなって選びますっていいたいのにって思ってたらガチでいなくなってたのmake me laugh

I cannot remember trivial thing so time overtook me even THAT

でもそういう心掛けでいるとずっとネガティブになっちゃう

ハッピーガールでいたいかな!

自己肯定感マシマシで!

っていうか流石に出会えるやろ

無理ならどうする?

貧民がドル箱捨てねえだろ

ってまたネガティブにならないの!

実際社会人に向けて服爆買いしたけどどれも(着た自分が)可愛かったし

じゃあ自分と付き合えって?

いやそれは分身しないと無理やん(マジレス)

ガチで分身して男の人になれたら自分と付き合いたいけど

巨乳のセフレは作るわ

しがらみ全部捨てて飛び込んでも冷たく突き放されるだけなんだろうなって思うけど

じゃあそれを試せよって話だけど

流石に保険はかけたいと思ってしまって

でもそうなると結局無理で

ゴミ捨て場に捨てられるだけで

でもまあ

ゴミ箱にいても素晴らしいし

あ、自分がね

しょーみ捨てられるわけないでしょ

Ooh, I could have my Gucci on 
I could wear my Louis Vuitton 
But even with nothin’ on
Bet I made you look 
Yeah, I look good in my Versace dress 
But I’m hotter when my morning hair’s a mess
‘Cause even with my hoodie on
Bet I made you look

 

一人で生きていくこと

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それはとても解放されて素晴らしいことだと思う

それなのに、そう思えなくさせてしまったのなら

責任を取ってほしい

思えば、みんな私から離れて行った

私が嫌なんだろうな

私がきっと悪いんだろう

そしてこの先も繰り返す

最近はこればかりだ

自分が悪い、自分のこういうところがいけない、ここを治さないと

そんなことばかり考えている

自分を肯定なんで全くできない

そして、少しでも何かしら自分を肯定したいと思うことすら、きっと間違いなんだろうな

他責思考

治す気がない

思考停止

現実逃避

そんなふうに言われる

こんなこと書いてるのも、悲劇のヒロインと言われるのかな

私が全部悪いよ

ごめんなさい

治さないとね

結果治してないなら、そんなの嘘って

そんなこといわれても

治すつもりが、必死になって治す気がないなんて

そういわれても

どうすればいいか分からないの

せめて傍にいてくれればいいのに

でも私と一緒にいるのは苦痛なんだよね

ごめんね

一人で、一人で死ななきゃダメかな?

もう、ほんとに無理ってなったら

君のこと道連れにしていいよね?

覚悟しててね

よろしくね